恥知らずの相手は疲れるものである。
謎はほとんど解明されていないというのに、星矢と紫龍の体力気力は、既に相当の消耗を余儀なくされていた。
そこに、氷河のいれた不味いお茶を秘密裏に始末し終えたらしい瞬が戻ってきて、早速氷河を叱咤し始める。

「氷河、僕が今朝言ったこと忘れてる? 氷河の部屋に放っぽってある本を片付けてって、僕、言ったでしょ」
「あの時読んでいた本はちゃんと図書室に戻したぞ」
「それ以外の本も! 今、ちょっと氷河の部屋を覗いてきたら、枕元に積み重なったままだったよ!」
「ああ、あれもだったのか」
「どうして一緒に片付けようって思わないの」
「わかった。片付けておく」
「今すぐだよ!」
「了解」

強制わいせつの罪の自覚はできていない氷河も、瞬の命令に絶対服従という認識だけは、しっかり心身に装備済みらしい。
瞬に追い立てられるようにしてラウンジを出ていく氷河の後ろ姿を見送りながら、星矢と紫龍は二人同時に深い溜め息を一つ洩らした。

「にしても、これを脅迫って言っていいのか? 部屋を散らかしてるガキが母親に怒られてるみたいなもんじゃん」
「まあ、瞬の命令なんて、氷河にはいい薬になるだけのものだろう」
「瞬が口止め料を用意しろなんて馬鹿げた要求するはずもないしなー」

瞬が氷河に対して絶対的権力を持つことは、その権力の根拠がどういうものであれ、そう悪いことではないような気がした。
星矢と紫龍はそういう結論を出して、結局、氷河の弱み追求の手をそこで引っ込めてしまったのである。






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