「氷河! 使わない部屋の電気はこまめに消して」
「氷河! 飲み終えたあとのカップくらい、自分で片付けられないの」

瞬の、脅迫という名の小言は続く。
とはいえ、それは、以前は愚痴めいたぼやきだったものが命令口調になっただけで、瞬のしていることに、今と以前とで実質的な変化は何も起こっていなかった。
大きな違いは、瞬ではなく、むしろ氷河の方にあったろう。

瞬に弱みを握られている氷河は、瞬に何ごとかを言われると、そのたびに担任教師の注意を受けた小学生よろしく、即座に瞬の命令に従う。
何を言われてものらりくらりとかわし続け、結局その手の雑事をほとんど瞬にさせていた、氷河の以前の生活態度を思えば、それは劇的な変化だった。
無論、良い方向への変化である。

逆に、瞬の方は、そもそも命令口調に馴染んでいない上、人の弱みにつけこんで他者を自分の意思に従わせるなどという、やり慣れていない行為を強いられて(?)、それが相当に精神面への負担になっているようだった。
氷河にきつく小言を言ったあとで、瞬は必ず、居心地が悪そうに溜め息をつく。
どうしてこんなことになってしまったのかと、途方に暮れているように。

星矢と紫龍の同情は、むしろ、瞬に脅迫されている氷河より、氷河を脅迫している瞬の方に向いていた。






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