ところで、瞬は、普段の氷河がどんなパジャマを着て寝ているのかを知らなかった。 そもそも彼がパジャマを持っているのかどうかすら知らない。 子供の頃の氷河はパジャマを嫌って、いつも裸で寝たがっていた。 その性癖が今も続いているのだとしたら、氷河は寝衣の類を持っていないということもありえる。 そんなことを考えながら、氷河の部屋のチェストの中を探っていた瞬は、だから、パジャマの上下一式を見つけた時には、安堵の胸を撫でおろしたのである。 もっとも、瞬に見つけられたパジャマは一着しかなく、しかもおろしたてのように真新しいものだった。 氷河はやはり未だに裸で眠ることが多いのかもしれないと考えて、瞬はなぜか前途多難な気分になった。 「瞬ーっ!」 そこにまた、氷河の、今度はひどく慌てたような声が響いてくる。 「ど……どうしたのっ !? 」 いったい今度は何が起きたのかと、瞬は慌ててバスルームに取って返したのである。 脱衣所には、瞬に言われた通り、濡れていた身体をバスタオルで拭き終えたらしい氷河が、相変わらず全裸のままで立っていた。 たった今、屋内で怪獣にでも出会ったような雄叫びを響かせたばかりのはずなのに、妙に落ち着いた様子で。 というより、彼はきょとんとしていた。 むしろ、不思議そうな顔をしていた。 「氷河、何があったの」 「俺の身体が変なんだ」 「身体が変? 変って、いった……わあああぁぁぁ〜っっ !! 」 氷河が『変だ』と訴えるものを見てしまった瞬は、つい先ほどの氷河の雄叫びの優に2倍のボリュームを有する悲鳴を脱衣所に響かせた。 当然である。 なにしろ瞬は、氷河の身体のほぼ中央部分で、何やら大層立派なものが天を突くように堂々と隆起している様を見てしまったのだから。 (なななななななななんで〜っっ !? ) そんなとんでもないものを見せられてしまった瞬の驚愕は並大抵のものではなかった。 が、当の氷河はのんびりしたものである。 最初の驚きの時が終わると、彼は、その異形のものが、怪獣などとは違って、彼自身に何の害を及ぼすものでもないという認識を抱くに至ったらしい。 氷河はむしろ淡々と、客観的な事実だけを瞬に報告してきた。 「瞬は大人になっても優しいなーって思ってたら、こんなになった」 「こんなになった……って……」 瞬はいっそ、すべては氷河の悪ふざけなのだと思ってしまいたかった。 そうではないことがわかっているので、泣きたい気分になる。 が、ここで泣いても何が解決するわけではないことも、瞬はわかっていた。 「は……早く、これ着て」 氷河にかけられた催眠術が解けるまでの辛抱だと懸命に自身に言いきかせながら、そして、なるべく氷河の下半身を見ないようにしながら、瞬は、手にしていた氷河のパジャマを彼に手渡した。 受け取った氷河が、首をかしげながら瞬に尋ねてくる。 「これ、どうしたら、元に戻るんだ? このままだと、パジャマのズボンが穿きにくいぞ」 「どうしたらって……」 8歳の子供に、まさか自分で始末をつけろなどと言うわけにはいかない。 対処方法が思いつかず、おろおろしている瞬の前で、8歳の子供は8歳の子供らしい好奇心を発揮し始めていた。 氷河は、面白そうに、それを指でつんつんとつつきながら、 「瞬、これ、触ってみろよ。面白いぜ。硬くなってる!」 とか何とか言いながら、それを瞬の正面に向けてきたのである。 『楽しそうに言うなーっっ !! 』と、瞬はいっそ氷河を怒鳴りつけたかった。 今の氷河の年齢を思い起こすことで、かろうじて、そうすることを思いとどまる。 「何でこんな変な形になったんだろ。前はこんなじゃなかったのに」 氷河は、それを、実に興味深げにまじまじと見詰めている。 子供の頃に比べれば、確かにその部分には色々と変化も起きていることだろう。 氷河がそれを見慣れぬ玩具を扱うようにしている様子に はらはらしながら、氷河が危険な気分にならないだけマシだと、瞬は必死に自分に言い聞かせていた。 ──のだが。 |