半年ごとの定期健診は、グラード財団系列の企業に籍を置く社員に課せられた義務ということになっていた。 受診しないとペナルティがつく。 社員は休養がてら、指定された医療センターに赴き、その日ばかりはゆったりした一日を過ごすことが仕事になっていた。 氷河と瞬も、そのあたりは他の社員と同様である。 これまで幾度も受けてきた検査項目をこれまでと同じようにこなし、既に顔見知りになってしまっている担当医師に、前回の検査時同様、『異常なし、極めて健康』のお墨付きをもらう。 その後、二人は、健診の日の慣例となっている会合に出席するために、グラード財団本部ビルに向かった。 それは、同じ系列の企業の中に籍は置いているものの、今では別々の仕事をしていて、生活の場もそれぞれになり、ほとんど顔を合わることのなくなった昔の仲間たちの、定例の同窓会のような集まりだった。 場所は、グラード財団本部の最上階にある総帥の私室。 ビル全体での空気清浄化システムが導入されている財団の本部ビルは、アジア地区でも屈指の高さを誇る高層ビルである。 東と南の壁全体が強化ガラスの窓になっている総帥室からは、夜の街が、たくさんの星を内包したガラス玉の収められた玩具箱のように見えていた。 「久し振りだな。元気でいたか」 「おかげさまで」 「のようだな」 半年という時間は、長い付き合いのある友人たちが会わずにいる間隔としては、長すぎもせず短すぎもしない期間である。 氷河と瞬は、部屋に入って最初に目に入った星矢と、和やかに再会の挨拶を交わし合った。 氷河たちの登場を片手をあげて迎えてくれた星矢の髪には、白いものが混じっている。 「おまえらは変わらないな。昔のまま」 彼は、半世紀前と全く様子の変わっていない氷河と瞬に、羨望というよりも、むしろ慈しみでできた温かい眼差しを向けてきた。 「若さを保つ秘訣は、明日死ぬかもしれないと思っていることだ。それが、 「ご高説、承っておこう」 氷河の言葉に大仰に感心してみせる紫龍の目許には、その穏やかな人となりを偲ばせる皺が刻み込まれている。 「氷河ったら、偉そうに」 「言うだけならタダだろう」 「それはそうだけど」 他愛のないやりとりを交わしながら、昔馴染みたちが、互いの顔を見合って、さざめくように笑う。 その場にいる昔の仲間たちの中で、自分たちだけが数十年前と同じ姿を保っていることを、氷河と瞬は異常なことだと思ってはいない。──いないように見えた。 一輝がこの集会に姿を現さなくなって随分経つ。 彼は、歳をとることをしなくなった自分の弟に出会うことで突きつけられる現実を見るのが辛いのかもしれなかった。 昔馴染みたちが和やかな挨拶を交わしているのは、最初の数分間のみ。 やがて氷河と星矢は、昔と同じように、実にくだらないことを種にした口喧嘩を始めた。 昔と同じように、瞬が止めに入る。 それは、この会合のありふれた光景、ありふれた出来事だった。 |