「あのふたり、同時に天国行って、あの世で出会って、びっくりしたんじゃないのか」
氷河との喧嘩を一段落させた星矢が、沙織たちの側にやってくる。
沙織は、潤んだ瞳を隠し伏せるようにして、星矢の言葉に頷いた。

それはあり得ることだった。
残された僅かな時間を希望をもって生きてもらうために、沙織は、瞬の命が残り少ないことを氷河には伝えられなかったし、氷河の時間が残り少ないことを瞬に告げることはできなかったのだ。
「ふたりして同じことを考えていたのかと、苦笑しているかもしれないわね」

「まあ、いいけどな。あの二人を見てると、俺も若返るし、懐かしいし──。本物の氷河と瞬じゃないのにさ、氷河と瞬の心を見てるみたいなんだよな」
それがいいことなのか悪いことなのかは わからないけど──と、星矢は、彼が少年だった頃の口調に戻って呟いた。

星矢の懐疑を、紫龍が即座に打ち消す。
「いいことだろう。当人たちは彼等にあとを託して、後顧の憂いなく旅立つことができたんだろうし、俺たちは、あの二人のおかげでいい気分でいられる」

その場にいる人間たちは、同じ場所にいる人工生命体の存在を否定することはできなかった。
その二つのものは、彼等にとって、あまりに美しく、息苦しいほどに懐かしいものだったから。

「そうね。氷河と瞬は、自分がいることで自分の片羽が強い人間でいられることを知っていたから、ああしたんだと思うわ。残される者に過保護すぎたんじゃなくて。実際、あの二人は、その最期に、残される人のために、それまででいちばんの強さを見せてくれたもの」

氷河と瞬が残していったものは、切ないほどに強く美しく、そして、大切な友を失った仲間たちの心をも慰めてくれるものだった。
それは結局、『幸福』と名付けることしかできないものだったろう。






【next】