俺は、何か、嫌〜な予感がした。 星矢は、かりかりと頭を掻きながら、全く感情の伴っていない薄ら笑いを浮かべてるし、紫龍は妙に渋いツラ。と、溜め息。 そして瞬は、今朝、一度はこいつらの前に姿を見せたらしい。 してみると、こいつらの妙な態度は、瞬が一度ここに来た時に何かがあった──瞬がこいつらに何かを言った──から、としか思えない。 俺は、紫龍以上の渋面を作って、星矢と紫龍を睨みつけた。 俺の睥睨にわざとらしく肩をすくめて、星矢が、その事実を俺に告げる。 「まあ、おまえも察しはついていると思うけど、瞬はおまえを避けてるんだよ」 「なぜだ……」 ほとんど反射的に、そして呟くように、俺は星矢にそう返していた。 本気で、その理由がわからなかった。 俺は──俺にとっては、夕べという夜は、歓喜と感動の夜だったから。 黙秘権行使のためではなく、言うべき言葉を見付けられずに黙り込んでしまった俺に、星矢はあくまでも無神経だった。 「へたくそ!」 「なに?」 「だったんじゃないのかー? で、瞬は、まるで期待はずれだったもんだから、もうおまえとそーゆーことをしたくなくなったとか」 「そんなはずはない。瞬は、夕べは──」 「夕べは?」 星矢は、どう見ても、真面目に俺と瞬のことを心配していない。 この無神経なガキは、爛々と瞳を輝かせ、いかにも興味津々といった様子で、俺の言葉の先を促してきた。 当然、俺は、口をつぐむ。 「では、やはり、まあ、その何だ。想像していたよりずっと身体への負担が大きくて、おまえとそういうことをするのは、もう懲り懲りだと思ったのかもしれないな」 分別顔をしている紫龍も、所詮は星矢と五十歩百歩。デリカシーのデの字も持っていやがらない。 シマフクロウやオウゴンヤシハタオリドリですら三歩下がって影を拝むくらいの昨日までの俺の苦労と努力を見ていたくせに、よくもそんなことが言えるもんだ。 「俺は、瞬の身体には気を遣いすぎるほど気を遣った! しゃぼん玉を扱うよりも優しくしたんだ!」 「なら、おまえの気遣いがひとりよがりだったんだろう」 あっさり言うな、この長髪露出狂変態男が! 俺が冷たい怒りの小宇宙を燃やし始めたことに気付いたらしく、長髪露出狂変態男は、さすがにそれ以上の暴言を吐くことはなかった。 代わりに、恐いもの知らずの星矢が、横から口をはさんでくる。 「どっちにしてもさ。あれは照れてるんでも恥ずかしがってるんでもなかったぞ。どう見たって、瞬はおまえを怖がってるふうだった。これは保証する。100万円賭けてもいい」 これがマンガだったなら、4段ぶち抜きの大ゴマで、稲妻をバックに、『ガーン!』と超極太角ゴシック体の書き文字が入るところである。 俺は、こんなバカ共の話を信じたくなかった。 信じたくはなかったのだが──。 他ならぬ瞬が、その行動で、星矢たちの言葉が根拠のない妄言でないことを裏打ちするようなことをしてくれたのだ。 だから。 俺は、信じないわけにはいかなかった。 瞬は、その日一日、俺と顔を合わせてくれなかった。 俺と鉢合わせしないように隙を見て階下におり、食事くらいはとったようだったが、瞬は一日のほとんどを部屋の中に閉じこもって過ごし、外に出てきてはくれなかった。 俺の記念すべき愛と感動の夜。 いわゆる初夜。 英語で言うなら、ブライダルナイト。 俺は、その翌日には早くも、自室で寂しい独り寝をすることになった。 いや、眠れなかった。 いったい俺の何が悪かったのかを、俺は悶々と考え続けた。 |