俺は確かに、夕べ、瞬のOKをもらった。
俺は、瞬を、無理やり俺の部屋に引っぱり込んだわけじゃない。
瞬は、自分のその足で、俺の部屋に来てくれたんだ。

瞬が初めてなのはわかっていたから、もちろん俺は瞬に優しくした。
過剰なくらいに優しくした。
こういうことは最初が肝心。
それ・・はとてもいいものだという認識を瞬に植えつけることが、初めての夜における俺の至上義務だと、俺は考えていた。
だから俺は、俺自身に、俺は世界でいちばん辛抱強く優しい男だという暗示をかけてコトに挑んだし、実際その通りのことをしたんだ。

最初のインサートまでに通常の5倍は時間をかけた──と思う。
『可愛い』だの『愛してる』だの『ずっと好きだったんだ』だの、瞬が相手でなかったら死んでも口にしないようなセリフも真顔で言ってのけた。

バードキスとでも言うのか? 触れるだけのキスから初めて、瞬をリラックスさせるための軽いスキンシップと雑談だけで30分は費やした。
それでも、俺が瞬の服の襟に手をかけた時、瞬は臆病に身体を震わせていた。
慌てて、くだらないギャグを飛ばして瞬を笑わせて、その隙に瞬のシャツのボタンを外した。
それでもまだびくびくしている瞬に、
「俺は何も見ないから」
と大嘘をついて、瞬を抱きしめたまま、俺は瞬の身に着けているものを剥ぎとっていった。

『嫌だったらすぐにやめるから』だの、
『これは怖いことじゃないぞ』だの、
初めての夜における世界の定番『優しくするから』だの、
『俺はおまえに惚れきってるから、ひどいことはできない』だの、
『おまえを気持ちよくしてやるためなら、俺はどんなことでもしてやるし、もしそうすることができなかったら100万円くれてやる』だのと、
俺は思いつく限りの語彙を総動員して、瞬が身にまとっている躊躇と恐怖心とを、服と一緒に一枚一枚丁寧に脱がせてやったんだ。

苦労の甲斐あって、俺のクサいセリフの持ち合わせが尽きかけた頃、瞬はついに、頬どころか耳たぶまでを真っ赤に染めながら、大人しく俺のベッドに横になってくれた。
俺がなんとか瞬の服を全部脱がせ終わった時には、瞬が俺の部屋に来てから優に1時間以上の時間が過ぎていたと思う。
で、俺は、10秒で自分の服を脱いだ。
そーゆーことは、とにかく素早くしないと、瞬に逃げられてしまいそうだったからな。

そうして、やっと瞬の身体に俺の身体を重ねた時には、俺は瞬の身体の熱さに驚いた。
俺だって、何気ない振りして、その実かーなーりー興奮してたから、相当身体は熱くなっていたはずなんだが、瞬の肌の温度はそれ以上。
胸の鼓動も、俺はまだ何もしていないっていうのに、恐ろしく速く波打っていた。

瞬の緊張と羞恥心は、確かに尋常のそれじゃなかっただろう。






【next】