緊張しすぎて熱を持っている瞬の身体は、だから随分と敏感になっていた。
俺がちょっと手で触れるだけで、そのたびに、瞬の唇から溜め息のような忍びが漏れる。

俺は、それが瞬でなかったら、そんな真似をしでかす阿呆を、多分殴り倒していた──だろう。
それは、瞬の声だから許せるのであって、あの手の喘ぎ声をフツーの男の野太い声で聞かされた日には、勃つものも勃たないに決まっている。

ああ、つまり、これはいわゆる一種の反語だぞ。
瞬以外の野太い男の声なら勃たないが、瞬の可愛い声ならエレクトするという。
で、まあ、そういうわけで、俺はさっさと瞬の中に突っ込みたい気分になったんだが、なにしろ相手は俺の百倍もデリケートな瞬だし、俺はついさっき世界の定番『優しくするから』を言ったばかりだったからな。必死でそれを我慢した。

まあ、その件は我慢していたが、俺の中には、それとは別に、瞬の身体をすみずみまで確かめておきたいという野望もあったから、俺は、先に、そっちの野望の実現に挑むことにしたんだ。

本当に、じっくりたっぷり丹念に、俺は瞬の身体を観察した。
それは、無論、今後のためでもある。
瞬の腕、指、爪、瞬の胸、腹、腰、瞬の脚、膝、爪先、それにもちろん、あの辺とかその辺とか──を凝視し、触れ、そうやって確かめた情報や、それらの場所のどこをどう愛撫すれば瞬がいい反応を示してくれるのかを、脳裡に刻み込む。
それは、要するに、俺の頭の中に瞬の身体の地図を作っているようなものだった。
もちろん、外側だけじゃなく。

その地図がほぼ完成する頃には、瞬はもう夢うつつの状態だったと思う。
まあ、他人にあんなに身体中を触られまくったのは、瞬も初めてだったろうしな。
医者だって、あそこまで念入りなチェックはしないだろう。そんなド助平な医者がいたら、俺が速やかに殺してやる。

で、最初からぶっ飛ばすわけにはいかないから、ごくノーマルな体勢で、俺は瞬の中に入っていこうとした。
もっとも、ノーマルと言っても、俺はそのためにかなり瞬の脚を開かせたから、瞬はまた正気にかえって真っ赤になり、脚を閉じようとして、ほとんど力の入らない状態になっていた膝やら爪先やらを動かそうとし始めたが。

俺は逸る気持ちを抑えて、
「こうしないとおまえの中に入れないんだ、わかるだろう」
とか何とか、無理に落ち着いた声で(内心、大いに焦りつつ)瞬を説得した。

そうして、そりゃもう気を遣いすぎるほどに気を遣って、ゆっくりと、俺は、そのイベントの肝心要の行為に取り掛かったわけさ。
瞬が声を洩らすたびに身を引いて、身を引くたびに、瞬に痛いのかと訊きながら。
俺があまり何度も訊きすぎたせいか、最後には瞬の方が、
「平気、気にしないで」
なーんて可愛いことを、健気にも言ってくれた。

で、瞬の中に収まってから、俺は、抽送──と言うのか?──それにとりかかった。

そういや、『抽送』ってのは、国語辞典には載っていない単語だそうだな。
官能小説用の造語らしい。
ナニの最中に、入れたり出したり、押し込んだり引いたりする、身もフタもない言い方をすれば『ピストン運動』の代替語。
なんでも、本当は、抽迭ちゅうてつが正しいのに、誰かが間違って使い始めたのが一般化してしまったとか。
ちなみに、『抽』は『抜く』、『迭』は『するりと入れ替わる』の意。
もっとも、『抽迭』の方も、俺の辞書には載っていなかったから、その話のどこまでが本当なのかを、俺は知らないが。






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