ともかく、その抽送も、俺は、普通じゃありえないくらい、ゆっくりしたスピードで実行した。
しかし、さすがに何というか──あー、つまり、言葉を選ばず明け透けに言うと、瞬の中は締まりがよすぎて、おまけに、瞬の声は可愛いだけの溜め息から色っぽい喘ぎに変わってきていて、その上、俺のために初めての痛みを必死に耐えてくれている瞬の表情は、どうにもたまらない代物になっていて──。

……問題はその先だろーか。
とにかく、どこかで俺はぷっつんしたんだ。

そうだ。
確か、瞬が何かを言ったんだ。
掠れているのに潤んだ声で、小さな悲鳴みたいに。
俺の名前を叫んだんだったか──いや、もしかすると それは、『もっと』とか『やめて』とか、何かそういう、この手のシーンでは実にありがちな言葉だったかもしれない。
どこの誰でも言うような、ごくありふれた言葉が、瞬の唇から発せられた途端に、それはとんでもない刺激剤になった。
それ以上、優しい男でい続けることができなくなった俺は、おそらく、相手が俺の百倍デリケートな瞬だということを忘れて、瞬の中に俺自身をぐいぐいと──。

──その先が記憶にない。
俺は瞬の身体を気遣うのをやめた……んだろう、多分。
瞬の仕草や声が可愛すぎて、瞬の中が気持ちよすぎて。
シマフクロウやオウゴンヤシハタオリドリ顔負けの苦労の末にやっと貰えた褒美に狂喜して。
やっと俺のもの、ついに俺のもの──っていう感激もあって、俺は瞬にやりたい放題をしてしまったんだ。

いったい何を何回したんだったか……。
最初のノーマル体勢のあとにも、色々した──ような気がする。
そうだ。
「こんなのは嫌」とか何とか、涙声で訴えてくる瞬を無理やり捻じ伏せて、あれこれと──。
いや、だが、俺に限ってそんな……相手が瞬なのに、そんな、瞬の意に反するようなことを、この俺がするわけが──。

──したんだろうな。
ベッドでの『いや』は『もっと』だっていう一般論を、俺は、よりにもよって瞬にまで適用してしまったんだ。

多分、それで瞬は、俺を怖がるようになってしまったんだろう。
俺が瞬を好きでいることすら、瞬は疑うようになってしまったのかもしれない。
だが、悪いのは俺じゃなく、むやみやたらに可愛すぎて、色々と具合いが良すぎた瞬の方だ!
──という理屈は、おそらく瞬には通じないだろう。
わかってもらえないに決まっている。
決まってはいるが──。

俺は、俺が瞬を好きでいる この気持ちを、瞬に疑われることだけは耐えられない。
俺は、無論、これまでずっと、瞬と同じ部屋で寝られるようになりたいと思っていた。
そのためにシマフクロウやオウゴンヤシハタオリドリにもなった。
だが、それは俺が瞬を好きだからで、でなかったら、誰が好き好んで男なんかにせっせとエサを運んだりなんかするものか!

しかし──。
瞬にわかるだろうか、そんなことが。
わかってもらえるだろうか。
瞬の目には、夕べの俺は、瞬の意思を捻じ伏せて、自分の快楽だけを追った最低の男に映ったに違いないのに。

でも、そうじゃないんだ。
セックスなんてできなくても、瞬が俺を見ていてくれさえすれば、俺は多分、それだけで幸せでいられる。
もちろん、それはデキた方がいいに決まってるが。
できれば毎晩でもしたいが。

だが、それがしたくて、俺は瞬に惚れたんじゃない。
そうじゃないのに、惚れたらシたくなるから、男ってのは不便だ。
ええい、くそ、俺はいったいどうしたらいいんだっ!






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