俺は悩んだ。
悩みに悩み、苦悩の上に苦悩を重ねた。

それは究極の選択だ。
瞬を選ぶか、瞬との××を選ぶか──。
いや、違う。
俺が苦悩したのは、瞬と一緒にいるために、瞬との××を断念できるかどうかということだった。
それさえしなければ、瞬は俺より強いんだから、瞬が俺を怖がる理由はなくなる。
それはわかっていた。

そして、答えは最初から決まっていた。
決まってはいたが、俺は3日間苦悩し続けた。
当然だろう。

瞬とふたりきりで過ごす夜。
俺しか知らない瞬を知ること。
瞬が泣いていたら、瞬を抱きしめ慰めてやれる立場を手に入れること。
つらいことがあっても、互いの鼓動を確かめ合うことで安心できる、二人でいれば寂しくなくなり、一緒に生きていこうと思うことができる、そんな夜を手に入れること。
一日の終わりに、瞬に「おやすみ」を最後に言うことのできる男になり、そうして二人で眠りにつく夜。

そんな夜を瞬と過ごせるようになることを、俺はずっと夢見ていた。
瞬の特別が俺で、俺の特別が瞬で、その証として二人きりで過ごす夜を。
俺の夢が『瞬のおムコさんになること』なら、俺と瞬が二人きりで過ごす夜は、その夢を具現した時間とでもいうべきものだったんだ。

だが、そんな夜を俺が求めている限り、俺は瞬の顔を見ることができない。
瞬は、俺に顔を見せてくれない。
そして俺は、瞬の声を聞くこともできない──んだ。
そんな日々を過ごすことに、俺は耐えられそうになかった。


だから、俺は言ったんだ。
瞬の部屋に赴き、怖がって俺から逃げようとする瞬を捕まえて、
「もうあんなことはしないから、以前のように、俺の側にいてくれ。俺を見てくれ」
──と。

「え?」
瞬は──瞬は、俺の苦悩の末の決断を聞くと、一瞬、虚を衝かれたような顔になった。
そして、ぽろっと涙を一粒こぼした。
それから、さめざめと泣き出して、
「ひどい……ひどい、ひどい……! そんなこと言うなんて、氷河なんか嫌い! 出てって!」
と叫んで、俺を部屋から追い出した。


「…………」
俺は、何がどうなってそういうことになるのかが、まるでわからなくて──。
泣きたいのは俺の方だった。






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