公爵との対面が終わると、シュンは煙に巻かれたような心地で、彼に与えられた部屋に戻った。
陽が傾き始めたシュンの部屋では、先ほどの小間使いの少女が、シュンのための夜着を用意して待っていた。
そして、シュンは、彼女に為されるがまま、その夜着への着替えを済ませたのである。
自分が妙な世界に紛れ込んでしまったような気がして、この世界の住人なのだろう小間使いに、シュンは事情を尋ねる勇気が湧いてこなかったのである。

ありえない事態に戸惑い、ろくに口もきけないでいたシュンは、そして、そこから別の部屋に連れていかれた。
シュンに与えられた部屋も相当に贅沢なものだったが、シュンが案内されたのは更に豪奢な── 一目で寝室とわかる──部屋だった。

「まだ、夜というには早い時刻ですが、公爵様は、自分が元の人間の姿を戻るところをシュン様にお見せして、呪いが冗談でも狂言でもないことをお知らせしたいからとおっしゃっておいでです」
「あ……あの、魔女の呪いというのは本当なんですか」
やはりこの少女も、あの執事の言ったファンタジーを信じているらしい。
なんとか気を取り直して尋ねたシュンに、彼女は躊躇も見せずに頷いた。

「でも、呪いが真実だということをお知らせしたいから……というのは、嘘だと思います。閣下は、もうずっとシュン様のお越しを待ちかねていらっしゃいましたから── 一刻も早く、シュン様とおしとねをご一緒にしたいのですわ。あんなにお美しい公爵様に、これほど情熱的に愛されるなんて、羨ましい限りです」

その“お美しい公爵様”は白鳥である。
いったいあの白鳥が、どうすれば人間であるシュンを情熱的に愛せるのか、シュンにはわからなかった。
だが、その寝室には本当に、白鳥がいた。

世話係の少女は、その白鳥に恭しく腰をかがめ、
「では、素晴らしい夜を」
とシュンの耳に囁いて部屋の扉を閉じ、シュンはその部屋に、白鳥と二人・・きりで取り残された。






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