やはりそういうことになるのかと、シュンは、その事実を、ただ事実として認めた。
シュンは、彼のしようとしていることを拒む気にはならなかった。
もとより彼を拒む権利はシュンにはなかったのだが、たとえその権利があったとしても──シュンは彼を拒みたくなかった。

ベッドの脇で、公爵が、襟や袖口に凝った刺繍のある上着を脱ぎ、脇にあった椅子の背もたれにそれを放り掛ける。
シュンは、奇妙な気持ちで、その様子を見詰めていた。

「魔女の呪いなんて半信半疑だったんですけど──」
「ん?」
「もし、本当だとしたら、呪いが解けた時には、あの……裸でお出ましになるのかと思ってました」
「その方が手間が省けてよかったのに」
白い絹のシャツを脱ぎ、上半身だけ裸になった公爵は、そう言いながらシュンに身体を重ねてきた。

それから、シュンの耳許に唇を近付けて、囁く。
「おまえは金で買われてきたようなものだ。俺と寝るのは嫌なんじゃないのか」
「そのはずなんですけど……。そうですよね。変ですよね、こんなの。でも、僕は──」
嬉しいんです──口を衝いて出そうになったその言葉を、シュンは慌てて喉の奥に押しやった。
公爵に、それを媚びと取られることを危惧して。

「確かに妙なことだが、おまえがこの事態を悲しんでいないらしいのが、俺は嬉しい」
公爵は、シュンよりも正直である。
シュンの心臓は、大きく波打った。

「僕は……」
何を言おうとしたのだったか──いずれにしても、シュンの言葉は公爵の唇によって遮られてしまった。

公爵の愛撫が、やがて、シュンの意識を薄れさせ、シュンから意思を奪っていく。
魔法や呪いの闊歩する世界では、他人に身体を開かれることを怖れる──などという、普通の感情も湧いてこなかった。
情熱的な愛撫は魔法のように心地良く、繰り返される口付けは魔法のように甘い。
身体が砕け散るのではないかと思えるほどの交接の衝撃も、シュンに歓喜と恍惚をもたらすだけのものだった。

なぜなのかはわからないが──ブラヴァツキー家の夜会で公爵の青い瞳に出会った時から、自分は彼に惹かれていたのだと、激しくシュンを揺さぶってくる公爵の下で、シュンはうっすらと考えていた。

思考より感覚の方が、理屈より直感の方が、より強く今のシュンを支配している。
思考がついていけないほどに早く、シュンの身体は公爵を理解してしまっていた。
公爵が終わってからも、シュンの腕は彼を放そうとせず、その胸にすがりついたままだった。






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