媚薬の効果は絶大だった。 「僕、もう、どうにかなっちゃいそう……氷河、助けて……!」 瞬が瞳を潤ませて、俺にすがってくる。 俺は、『待ってました!』という本心をひた隠しにして、すがってくる瞬を抱きしめてやる。 ことさら優しくゆっくりと──要するに、意地悪く。 俺の“優しさ”に焦れた瞬は、全身を俺に押しつけるようにして、 「そうじゃなくて……!」 と喘ぐように訴えてくる。 本当にしてほしいことを言葉にしてしまえないもどかしさと、疼く身体に急き立てられて、その言葉を口にしてしまいそうな自分を恥じる気持ちとの間で、瞬はすっかり混乱しているらしい。 そんな瞬を見おろしながら、俺は、嫌味なほどの猫撫で声で、こういう時のお約束、 「ちゃんと言葉にして言ってくれないと、どうしてほしいのか、わからないだろう」 を言ってのけた。 瞬の頬は、俺の挑発のせいで 更に朱の色を濃くし、瞬の瞳は、羞恥の涙のせいで ますます潤み──瞬はやがて、身体とプライドのジレンマに決着をつけた。 そんなハシタナイ言葉を口にすることは、どうあっても瞬にはできないことだったらしい。 しかし、疼き続ける身体はいかんともし難い。 対立し合う二つの欲求を同時に解決するために、瞬はなんと、その手を俺の股間に伸ばしてきた。 頬を真っ赤にして唇を引き結び、忍び込むようにひっそりと、だが、明確な目的を持って。 瞬はよほど切羽詰っているんだろう。 大胆なんだか控えめなんだか判断に迷う瞬の必死の誘いは、強く俺の心を打ち、 その時を待ち兼ねていた瞬が、それだけのことで、嬉しそうに歓喜の声をあげる──。 ──という展開を脳裏に思い描きつつ、俺は、瞬に媚薬を飲ませるという仕事にとりかかった。 紫龍が俺にくれた媚薬は、高さが8センチほどの、妙に凝ったデザインのガラス製の香水壜に入った、いかにも怪しげな代物だった。 エジプト風のデザイン、ガラスの紫色──が胡散臭さを倍増させている。 だが、モノは媚薬である。 存在自体が胡散臭いものは、容器も胡散臭い方が逆に真実味を感じさせるものだ。 健全で健康的で明るく前向きな媚薬なんて、文部科学省が発売元でも信じる気にはなれない。 俺は、その胡散臭さを信じることにした。 |