俺は、瞬にすべてを白状させられた。
瞬は柳眉を逆立てて、俺を睨みつけてきた。
「薬で僕をどうこうしようなんて……」
「すまん」
俺としては平謝りに謝るしかなかった。
俺のこの切なくも哀しく切羽詰った気持ちが瞬に通じるはずもない。

案の定、瞬は、俺の願望を自然なこととして認めようとはせず、無論、弁解のための時間を与えてもくれず、頭ごなしに俺を糾弾してきた。
「それで、僕が氷河とそういうことして、氷河はそれで嬉しいの!」
「…………」

ここで『嬉しい』と答えたら、俺は未来永劫 瞬に軽蔑されることになるだろう。
極めて動物的な欲望のせいで判断力が鈍りつつあった俺にも、それくらいのことはわかった。
わかったから、俺は無言でいた。
どちらにしても、俺が、瞬と二度目をすることばかり考えていて、その後のことに思い至っていなかったのは紛れもない事実だったんだから。

薬のせいでおかしくなって瞬にせがまれ、求められて、念願の二度目をする──そこまでは確かに嬉しいだろう。
だが、そんなことが本当に実現したら、瞬との二度目の後、俺は、薬の力で瞬を操ったことを半端でなく後悔する羽目に陥っていたに違いない。

そんな考えるまでもないことに、俺は今になって初めて気付いた。
これはもう、素直に自分の非を認め、反省するしかない。
俺は弁解や反論のできる立場にはなかった。

己れの浅はかな思考と行動に落胆し肩を落とした俺を見詰めながら、瞬は俺の前で溜め息をひとつ ついてみせた。
「氷河はね、媚薬の正しい使い方がわかってないの」
「へ?」
「媚薬っていうのはね、誰かに飲ませるものじゃないの。相手の心を無視して、薬で身体だけ思う通りにしても、そんなの虚しいだけだし、だいいちそれって相手の人権を無視することでしょう」

「…………」
その通りだ。
俺は、そんな基本的な、そして重要なことに、考えが及んでいなかった。
俺は、よりにもよって瞬の心と身体とを卑怯な手段で惑わそうとしていたんだ。

心の底、腹の底から後悔し反省して項垂れた俺に、瞬が突然奇妙なことを言い出す。
「こういうものはね、他人の意思を無視して、他人に飲ませるものじゃないの。自分の意思で、自分が飲むものなんだよ」
「へ?」
「さあ、飲んで」
「俺が?」
「他に誰がいるの。黙って飲みなさい!」

珍しい瞬の命令口調。
そんなものを飲まなくても やる気満々の俺が、それを飲んだらいったいどういうことになるんだろう──なんてことを悠長に考えている時間は、俺には与えられなかった。
瞬がそうしろと言っているんだ。
負い目でいっぱいの俺は、命令に従うしかない。

瞬の迫力に押されて、俺は、その怪しげな薬をひと口、口中に含み、覚悟を決めて飲み込んだ。
俺の喉が動くのを確認した瞬が、興味深げに楽しそうに笑う。
「この薬、即効性があるの? 効果はすぐ出るの?」
「と、紫龍は言っていた」
「変な気持ちになってきた?」
瞬は本当に楽しそうで──と言うか、まるで声をあげて笑い出したいのを必死に我慢しているようだった。

「どう? 苦しい?」
瞬がアップで俺に迫ってくる。

「──ああ」
低い声で、俺は頷いた。
苦しかったわけじゃない。まだ。
ただ、俺は困惑していた。
これは薬のせいなんだろうか。
それとも、俺と対峙している時の いつものあの現象なんだろうか。
それは俺にはわからなかった。

瞬が──ありえないほど艶めいて見えた。






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