「苦しいの?」 瞬が俺の肩に手を伸ばしてくる。 「我慢できるの?」 なんだか歌でも歌っているような軽快な口調で 言葉を重ねながら。 「──我慢する」 ここで自分を抑えきれなかったら、俺はパンダ以下だぞ。 俺は瞬に──というより、自分自身に命じるように、そう言った。 瞬はしばらく、そんな哀れな俺を無言で凝視していた。 やがて瞬が、それまで俺をからかうようだった口調と眼差しを一変させる。 「かわいそうに……」 そして、瞬は、聖母のように慈愛に満ち満ちた表情を浮かべて、俺を抱きしめてきた。 「瞬……離れろ」 我ながら情けない声で、だが懸命に俺は瞬に命じた。 瞬は、今の俺がどういう状況にあるのかがわかっているんだろうか。 ──わかっているとは思えない。 瞬は、 「氷河、かわいそう」 拷問のように俺に触れていた瞬の手が、俺の背に回される。 決死の思いでその手を払いのけようとした俺の唇に、瞬は自分の唇を押しつけてきた。 「しゅ……」 瞬の意図が全く理解できず、戸惑うことしかできずにいる俺に、瞬は初めて真顔を向けてきた。 それにしても、瞬の表情は、日本の季節のように鮮やかに変化する。 「わかるでしょ。他人に邪悪に立ち向かってほしいと思ったら、自分がそれと闘う姿を見せるのがいちばん。人に優しくあってほしいと思ったら、自分が優しくしてあげるのがいちばん。他人じゃなくて、まず自分。僕の身体を薬なんかでどうこうしようとするんじゃなく、氷河が切羽詰ってみせるのが──特に僕には有効だよ。僕は心優しい人間だそうだから、苦しんでいる人には手を差しのべずにはいられないもの」 瞬の指先は白く清潔で、瞬の唇は薔薇色をしている。 「まして、それが氷河なら……」 そして、その声と瞳は、恐ろしく 他にどう言えばいい? 他に言葉が思いつかない。 呻くような声で、俺は瞬に訴えた。 「苦しい。助けてくれ」 |