「あげく、そんな逆恨みで奴はおまえに拳を向けてきた。馬鹿だ」
自分が考えていたことを言い当てられたような気がして、僕は心臓が跳ねあがった。
氷河はすごく傲慢な態度と口調でそんなこと言うけど、でも、兄さんへの復讐の原因がくじ引きの結果だなんて言う氷河だって逆恨みを極めてるし、ちょっとだけ──馬鹿なんじゃないかな。

氷河は本当に、一時にひとつのことしか見ることができないんだね。
今の氷河は復讐のことだけを考えて、自分自身を見ていない。
復讐相手の兄さんのことすら見ていない。

殺生谷で、氷河は、もしかしたら、やっと復讐が成ると思って嬉々として兄さんに闘いを挑んでいったんだろうか。
兄さんは、僕に拳を向けてきた。
僕は、それでも兄さんを許してくれと氷河に頼んだ。
それも結局──僕は結局、氷河の復讐心を煽っただけだったんだろうか。

「俺の手でとどめを刺せなかったことには正直落胆したんだが、それでも、肝心の復讐相手が死んでしまったのでは、それ以上の復讐は諦めるしかなかった。だが、あいつはぬけぬけと生き返ってきた」
復讐というひとつの目的をしか見ていない氷河は、憎々しげに言い募る。
「俺は当然喜んださ。生きる目的が俺の許に帰ってきてくれたんだからな」

氷河。
どうして氷河は、別のものを見ようとしないの。
今の氷河は、馬鹿げた逆恨みで昔の仲間たちを憎んでいた時の兄さんと同じだよ。

「……だから、兄さんの生還を受け入れてくれたの?」
僕は嬉しかったのに。
兄さんが生きて僕のところに帰ってきてくれたことも、氷河たちが、一度は仲間を裏切った兄さんを受け入れてくれたことも。
その寛容さに、僕は感動だってしたのに。

「しかし、復讐相手は遠くで生きていてくれるのが、いちばんいいな。毎日あの暑苦しいツラを見ているといらいらする」
「…………」
氷河の話を聞いているうちに──いらいらしてきたのは僕の方だった。
馬鹿げ・・・たこと・・・を平気で語り続ける氷河に、だから僕は、別の道を見せてあげることにしたんだ。
氷河が、今は復讐のことしか見えず考えられないというのなら、その道だって幾つもあるんだということを教えて、氷河の復讐のターゲットを、せめて兄さんから別のものへと移したかった。






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