僕はうぬぼれてもいいのかな? うぬぼれちゃおうかな? 「ねえ、氷河はもしかして、兄さんが憎いんじゃなくて、本当は──」 氷河にその推察を告げるために、僕は、兄さんを嫌いなのかと氷河に尋ねた時とおんなじくらいの勇気を必要とした。 勇気だけじゃなく──照れや気恥ずかしさを押し殺す手間も要った。 でも、その勇気を振り起こし、気恥ずかしさを打ち消して、僕は氷河に言ったんだ。 「僕を好きなだけなんじゃないかな?」 「なに?」 「だって、復讐って、普通は、相手の大切なものを奪い傷付けるのが常套手段でしょ。それくらい冷えた心でなくちゃ、命を奪いたいと思うくらいの復讐なんてできない」 氷河のそれは、復讐じゃなくて、ただの子供の焼きもちみたいだよ──とまでは、氷河のプライドを考慮して、僕は口にしなかったけど、氷河は、それがなくても十二分な衝撃を受けたみたいだった。 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。 それが憎悪というものだと思う。 世の東西を問わず、時代を越えて、裏切り者への復讐は一族郎党皆殺し。 そこまではいかなくても、例えば、友人たちの裏切りで、14年間も無実の罪で牢獄に閉じ込められていたモンテ・クリスト伯は、復讐の相手であるヴィルフォール検事総長の妻子までを死に追いやった。 ローマの英雄タイタス・アンドロニカスに息子を殺されたゴート族の女王タモーラは、タイタスの娘を生き延びた自分の息子たちに陵辱させた挙句、手足と舌を切り落とし、タイタスの二人の息子たちをも殺した。 息子たちを殺されたタイタスも、タモーラの息子たちを殺している。 物語の中の復讐ではあるけど、でも、復讐っていうのはそういうもの。 憎しみっていうのはそういうもの。 なのに、氷河は、それができないって言うんだから。 だから──。 |