僕の推察は、氷河には寝耳に水だったらしい。 氷河は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして、まじまじと僕を見詰めた。 それから、ひどく真剣な、まるで怒ってるみたいな顔になって、無言で何やら考え込み始めた。 随分長いこと──僕は氷河の反応を待った。 氷河は、すごく長い間、僕を待たせた。 そんなふうに険しい顔で黙り込んでいる氷河の前で長く待たされているうちに、僕の中には不安が生まれてきたんだ。 考えてみれば、そんな僕にだけ都合のいいことが、そうそうあるわけがない。 氷河に復讐を思いつかせたものが、実は兄さんへの憎悪じゃなく、僕への好意だったなんて。 好意と憎悪を区別できず混同する人なんて、滅多にいないはず。 それは、やっぱり、僕のうぬぼれっていうものだ。 「ごめんなさい。今の忘れて。復讐にも色々あるよね」 何をうぬぼれていたんだろう──と僕は思った。 そして、僕は何を馬鹿なこと言ってるんだろう──とも。 復讐にも色々あるだなんて、そんなのない方がいいに決まっているのに。 「そうか……」 それまでひたすら無言だった氷河が、やっと口を開く。 「そうだったのか」 氷河はいったい何を 「それで辻褄が合う。そうだったんだ!」 と吠えた。 そして、その咆哮の余韻が消えぬ間に、僕を抱きしめてきた。 「わっ、氷河っ!」 氷河に突然抱きしめられて、僕がびっくりしたことになんて、氷河はおそらく気付いてもいなかったに違いない。 「俺はこれでくだらない復讐から解放される! 自分でも時々不思議だったんだ。クジの景品なんかのことで何年も一輝を恨み続けていられる俺自身が」 嬉しそうにそう言って、氷河は更に強く僕を抱きしめてくる。 僕は、しばらく、浜に打ち上げられた魚みたいに口をぱくぱくさせてることしかできずにいた。 軽く1分以上の時間が過ぎてから、なんとか気を取り直して、氷河の胸を押しのけようとする。 「氷河、放してってば」 「なぜだ? おまえは俺が嫌いなのか?」 間髪を容れずに、返ってきた氷河の言葉がそれだった。 その可能性を、氷河は全く考えてなかったらしい。 氷河は、僕も氷河を好きなんだと決めつけていたとしか思えない。 氷河はきょとんとして──僕が氷河の腕から逃れようとする理由が全く思いつかないという顔をして──僕に尋ねてきたんだ。 |