──今度は僕の方が真剣に考え込む番だった。
僕は氷河が好きなのかどうか、を。

僕は考えた。
そりゃもう一生懸命に。
好きかと問われれば、もちろん好きなんだけど、それは、たとえば、日本人が昨日も一昨日も顔を合わせていた相手と 改めて抱き合う必要を感じるような『好き』なんだろうか?
僕は、そういう種類の好意を氷河に対して感じているんだろうか?
これは結構な難問だった。

考えに考えて、その上にも僕は熟考を重ねた。
そして、辿り着いた結論は。

好きなんだろうな……って。
僕の大切な兄さんをくだらない理由で恨み続け、復讐なんてことを企てた相手を、僕はたった今も憎めないでいる。
復讐の原因が馬鹿馬鹿しすぎるにしても──ううん。だからこそ?──そんなことに何年もこだわり続けていた氷河は、誰かが見ててあげないと独りよがりな思い込みで何をしでかすかわからない。
氷河は、この先もまた、くだらないことで時間の無駄使いをするかもしれないし、そんな氷河を、僕は危なっかしくて放っておけない。

それに──辛抱強く僕の答えを待ちながら、僕を見詰めてる氷河の青い瞳は真剣で、なんだかすごく綺麗だったんだ。

「嫌いじゃないけど……好きみたいだけど……」
それでもためらいを禁じ得ず、僕はあんまり自信なさげに──というか、本当に、僕は自信がなかったんだ──呟くように答えた。

「そうか。よかった」
氷河は、僕の頼りない返事を聞いて、すごく嬉しそうに笑った。
僕に嬉しそうに笑ってみせる氷河は、なんて言うか──すごく可愛らしかった。
子供の頃、一緒にたんぽぽの綿毛を飛ばして、二人で声をあげて笑ってたあの頃みたいに。
ありきたりなフレーズで恥ずかしいけど、胸がきゅんと締めつけられる感じがした。

──いいよね。僕が氷河を好きだって、何も変なことはない。
だって氷河は──氷河は、僕と一緒にたんぽぽの綿毛を飛ばしてくれたんだから。
今だって、同じ遊びに誘ったら、氷河はきっと僕に付き合ってくれるに違いないんだから。

子供の頃、僕のそんな遊びに付き合ってくれたのは氷河だけだった。
こんな楽しい遊びをどうして他のみんなは馬鹿にするのかって落ち込む僕に、氷河だけは付き合ってくれた。
今にして思えば、それは氷河にとって、氷河のマーマが氷河に教えてくれた 大切で懐かしい遊びだったんだろう。

なんだか色んな思い出や考えが僕の頭の中で渦巻いてきて、僕は思考を論理立てて考えることができなくなっていた。
うん。僕は昔も今も氷河が大好きだよ。
それだけわかってれば、それだけ思い出せれば、他のことは今はどうでもいい。






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