──はずだったんだけど。
だけど、現実の僕は、そんな幸せな錯覚の中でほのぼのしてる場合じゃなかったんだ。

「じゃ、行こう」
突然氷河が、僕の左の手首を掴んで言った。
「どこへ?」
当然僕は、氷河に尋ね返し、訊かれた氷河は僕に返事をくれる。

「どっちでもいいぞ。俺の部屋でもおまえの部屋でも。おまえの部屋のベッドもセミダブルだろう?」
「うん、僕の部屋でも、氷河の部屋でも……えええええっ !? 」
驚天動地というのは、こういうことを言うんだ。
僕の足は、地球の上で、本当にぐらついた。

ちょっと待って。
氷河は、たった今、実は僕を好きだったって気付いたばかりなんでしょう?
なんで急にそんな話になるの!

──という言葉を、あんまり驚きすぎた僕は、すぐに口にしてしまうことができなかった。
氷河は、今がまだ午前中だってことも──夜なら急でもいいっていうわけじゃないけど──全く考えていない。気にしていない。


──氷河は本当に思い込みが強かった。
こうと決めたら、一直線。
氷河は、僕の手を掴んで、引っぱって、僕は引きずられるように氷河の部屋に連れていかれて──あろうことか、僕は、その勢いのまま氷河のベッドに押し倒されてしまったんだ。

僕の身体にのしかかってくる氷河を、押しのけようと思えばそうすることもできたのにそうできなかった──そうしなかったんだから、やっぱり僕は氷河のことが好きなんだろう……と思う。

びっくりしたけど、氷河とのそれはなかなか気持ちよかったし、氷河は、周囲を見ずに突っ走るわりに、時々思い出したように立ち止まっては、僕を振り返り思い遣ってくれた。
氷河はちょっと不器用なだけで、ほんとはすごく優しいんだと、僕はそんなことを──同性愛を禁じた世界中の神様たち、ごめんなさい!──僕は氷河に身体を貫かれ揺さぶられている間、ずっとそんなことを考えていました!






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