「どちらの学校に通う予定なんですか?」 「To大大学院」 「わあ、すごい」 国内最高学府の中でも最も有名な校名を出された瞬は──瞬だけは──アルベリッヒに素直に感嘆してみせた。 それが、氷河の気に入らなかった──らしい。 「おいら岬の燈台守はー妻とふたりーでー沖行く船のー無事ぃをー祈ってー灯をかざす灯ぃいぃをかーざーすー」 とてつもなく無気力に、突然氷河が古い映画の主題歌を歌い出す。 さきほどの児童公園でのアルベリッヒの言い草も、氷河には不愉快だったのだろう。 そんな古い邦画の主題歌をアスガルドに生まれ育ったアルベリッヒが知っていたのかどうかはさておいて、彼は氷河の歌に存外にストレートな反応を示してきた。 つまり、彼は、 「そのとーだいじゃないっ!」 と、氷河の茶々に怒声を響かせたのである。 「灯台守は大変な仕事らしいから、初心者には無理なんじゃねーの?」 星矢の灯台のイメージも大概古い。 今時の灯台は大概の機能が自動化されていて、職員も灯台に常駐しているわけではないのだ。 「だから、そのとーだいじゃないとゆーに!」 アルベリッヒは、星矢のごく真面目な(?)意見に対しても、実に素直だった。 やはり、アテナの聖闘士とアルベリッヒの相性は、あまりよろしくない。 「そういうわけだから、瞬。彼の世話をお願いね」 賢明な女神の状況判断は的確である。 沙織は最も当たり障りのない人選をして、アルベリッヒの世話係に瞬を指名した。 それから声をひそめて、瞬にだけ聞こえるように実情を告げる。 「以前はそうでもなかったんだけど、ニーベルンゲン・リングに支配されていた時には、ヒルダは彼を重用していたそうなのよ。だからこそ彼の今後の処遇をどうすればいいのか迷ったらしいの。彼は彼で、ニーベルンゲン・リングに支配されていたヒルダとはうまくいっていただけに、ヒルダが元に戻ると意気消沈したようだし……。ヒルダは、だから、何かこう──そう、新しい夢とか生き甲斐とか、そういうものを彼に見つけてほしいと思っているようなの」 アルベリッヒの夢や生き甲斐が、日本なら見つかるかもしれないとヒルダが考えたのは、いったいなぜなのだろうと、瞬は素朴に疑問に思ったのだが、彼はそれを口にすることはしなかった。 アテナの周辺にはいつも、夢と希望だけはふんだんにあった。 ヒルダは、そこに、デルタ星メグレスのアルベリッヒの未来を賭けたのだろうと、瞬は考えたのである。 ──少々、大雑把に過ぎる賭けのような気がした。 |
* 古い映画:『喜びも悲しみも幾歳月』
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