「もう全ては手配済みだと言ったろう。今さらこの計画を取りやめたら、ホテル側だって迷惑する。必ずホワイトクリスマスを堪能できるっていうんで、あのホテルは部屋の予約もレストランの予約もほぼ埋まっているそうだ。いいか、その客の中には、雪のクリスマスを絵本でしか見たことがないようなイタイケなお子サマたちだっているんだぞ。おまえは、そのガキ共をがっかりさせたいのか!」

氷河の説得は、なかなかに狡猾だった。
自分の欲を前面に押し出さず、無垢でイタイケなお子サマたちを第一の犠牲者に仕立てあげてくる。
瞬は、氷河の説得に抗うことに疲れたように、ほうっと小さく息を吐いた。

「いいホテルであんなことするのが、氷河にはそんなに大事なことなの」
「もちろんだ」
「何もクリスマスだからって、そんなに気張ることないじゃない。いつもしてることなのに」
「それとこれとは別問題だ。特別な日に特別の場所でおまえと一緒に過ごす。これは大事なことだ」
「場所が違うだけで、することは同じでしょ。氷河は年がら年中、特別な日じゃない」
「無論。俺には、おまえと一緒にいられる毎日がすべて特別な日だからな」
「…………」

正論が氷河に太刀打ちできないことくらいは、瞬も心得ている。
「わかりました。氷河の望む通りにします」
結局瞬は折れ、丁寧語で、氷河に、彼の要望に応えることを告げた。
少し──悲しげな目をして。

(瞬……?)
めでたく瞬を説き伏せることができたというのに、瞬のその微妙な目の表情のせいで、氷河の胸中にはなぜか妙な引っかかりが残ったのである。






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