瞬が氷河の我儘に折れるのはいつものことだった。
多少の文句を言うことはあっても、瞬は大抵の場合、駄々っ子に負ける大人の顔をして、氷河の望みを叶えてくれる。

氷河は氷河で、瞬が寛容でいられる分野と限界をしっかりと心得ており、瞬に受け入れられない我儘は最初から口にしない。
瞬以外の誰かを精神的・肉体的に傷付けること、他人に経済的・時間的な損害を被らせること、自然環境によろしくないこと、卑怯なこと──何が瞬に許されて、何が瞬に許されないことなのかを、氷河は完璧に把握しているつもりだった。

その氷河の判断では、『クリスマスイブにホテルで二人きりの夜を過ごすこと』は、十分に瞬の許容範囲内にある我儘のはずだったのである。
なぜ瞬は、いつも通りに軽い苦笑いと共に自分の我儘を聞き入れてくれないのか──。
氷河はそれが気になって、どうにも心が晴れなかった。






【next】