「一輝が一人でふらふらしていられるのは、帰るところがあるからで、そこにおまえがいるからだろう」
帰るところ──自分の帰るところが戦場だということを、瞬はずっとつらく感じていた。
そこに氷河がいて、兄がいて、仲間たちがいてもつらかった。

「俺の帰るところも、おまえのいるところだぞ。もしおまえが望むなら、二人でずっとここにいてもいい。ここでなくてもいいが──どこででも、俺もおまえもそれなりに人様の役に立って生きることはできるだろう」
「ん……」

氷河ならそう言ってくれるだろうことはわかっていた。
こんな逃避行に──それも試験飛行に──付き合わされて、怒っても当然なのに、そうしないだろう氷河を、瞬は知っていた。
山の峰と峰の間で輝く星々が、瞬のそんな卑怯な心を嘲笑っている。

瞬を嘲るように星の瞬きは、だが、やがて、あの気のいい山男たちの言葉と瞳の輝きに変わっていった。
アテナの聖闘士たちでない者にも──結局は誰にでも──闘わなければならない何かがあり、誰もがそれらのものと闘っているのだ。

だというのに、そこに闘いが待っていることを知りながら、彼等は彼等の戦場に帰っていく。
いったい何のために──?
それは、その戦場で自らの闘いを闘い続けることが、彼等にとって“生きる”ということだからに違いなかった。

「──僕の場所に、僕は帰るよ、氷河」
二人の試験飛行の結論として、瞬が辿り着いた答えはそれだった。

「待っているのは闘いだぞ」
氷河が、念を押すように尋ねてくる。
「うん、わかってる」
瞬は、彼に頷き返した。

それは氷河が望んでいた答えと合致していたらしい。
氷河はそれ以上、瞬の決意を翻させようとはしなかった。





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