面倒な恋人






「面倒がなくていいんだ」
星矢と氷河のやりとりを脇で聞いていた瞬は、氷河のその言葉の意味を解しかねて、おもむろに顔をあげた。

ここ2ヶ月ほど、敵さんのお出ましがない。
アテナの聖闘士たちは開店休業状態で退屈し、有閑を極めていた。
星矢は、だから、大した意味はなく、何の気もなく、ただ退屈しのぎのためだけに氷河に尋ねたのである。
「おまえ、なんで瞬とそーゆー仲になったの」
と。
その星矢に対する氷河の答えが、それだった。

氷河の言う『面倒』の意味を理解できなかったのは、瞬だけではなかった。
他ならぬ質問者の星矢が、氷河の返答の意味を理解しかねていた。
そんな星矢のために、やはり退屈を極めていた氷河が、珍しく親切に詳細説明を加える。

「同じ聖闘士同士がいちばん面倒がないだろう。共に同じ戦場に赴く聖闘士同士なら、闘いに出る時、残していく者を思って後ろ髪引かれることもない。一緒に死ねる確率も高いから、俺が闘いで死んだ後のことを憂う必要もない。行かないでくれと泣かれることもなければ、生きて帰りたいと思うあまり卑怯なことをすることもせずに済む。当然、生に対して未練な気持ちを抱くこともなくなるだろう?」

賛同を求められても、星矢は氷河に頷くことはしなかった。
同意できなかったのだから、当然である。
代わりに星矢は、
「だから瞬?」
と、氷河に念を押した。
「だから瞬だ」
と、氷河が頷く。

瞬の前でそんなことを言ってしまう氷河に、星矢は呆れたような顔を作った。
脇で二人のやりとりを聞いていた紫龍は紫龍で、
「合理的だな、おまえにしては」
そう言って、意味ありげな笑みを浮かべる。

が、それは瞬には笑いごとで済む話ではなかったのである。






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