一方、瞬のチェーンに捕まってしまったヘリの中では、不安定な揺れと不気味な振動の中で、星矢たちがパニックを起こしていた。

「このヘリの重さ、いったい何トンあるんだよーっ」
「瞬の奴、このヘリの操縦者は一般人だということがわかっているのかっ」
「氷河っ、それもこれも みんなおまえのせいだぞっ」
「俺は何もしとらんっ!」

操縦席では、一般人であるところのパイロットが、機体の制御装置を緊張した面持ちで懸命に操作していた。
その一般人が、慌てて駆けつけた青銅聖闘士たちを振り返りもせず、ご丁寧に星矢の疑問に答えを返してくる。
「当機の自重は約4トンですが、燃料や積荷等の重さを加えた全備重量はほぼ5トンになります。私の身はお気遣いなく。沙織お嬢様に関わりのある場所で働かせていただいているからには、いつかこんなことに巻き込まれるだろうことを覚悟しておりました」

「ご……5トンってどれくらいだよ! 瞬のあの細腕で引き止められるくらい軽いのか、このヘリはっ!」
「5トンというと、星矢が95人分の重さだな」
「へ? そんなもんなのか?」
そう言われると、あまり重いような気がしない。
星矢はふいに、慌てることをやめた。
事態は全く好転していなかったのだが、紫龍の割り算がなぜか彼を冷静にしてしまったのである。

その紫龍が、この非常事態にあって冷静に割り算をしていられたのは、彼が聖闘士であったからだろうが、
「重さだけの話ではありません。重量5トンに加えて、離陸時推力というのも加わりますから、まあ、実質重量はその倍と考えていいでしょう」
パイロットの冷静さは、彼が大物だからだったろう。

「さすがは瞬さんですね。物を壊したり凍らせたりするしか能のない聖闘士とは、力の桁が違う」
雇い主に似たのか、一般人の物言いは非常に辛辣だった。
そして、一般人は、さすがにプロだった。

彼は、自動操縦から手動制御に切り替えた機体を ものの見事に立て直すと、完全な水平を保つことのできない危険な状態ではあったのだが、彼の預かった機体と乗員とを、無事に元の場所に戻すことに成功したのである。






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