「瞬っ、おまえ、いったい何を考えているんだっ!」
ドアが完全に開くのを待たずに ヘリから飛び降りた氷河は、危うく死にかけた仲間たちはともかく、一般人であるところのパイロットの手前、瞬を怒鳴りつけないわけにはいかなかった。
その怒声にひるむどころか、むしろ彼以上の勢いと速さで氷の聖闘士の側に駆け寄ってきた瞬が、氷河にしがみつく。

「置いてかないで……置いてかないで、氷河!」
氷河の胸で瞬が嗚咽を洩らし出すのと同時に、それまでヘリのスリッドに巻きついていたアンドロメダ聖衣のチェーンが、すみやかに自身の獲物を変えて、するすると氷河の手首に絡みついていく。
心を持たないはずのチェーンの、天晴れな忠誠心ではあった。

氷河に遅れてヘリの外に出てきた星矢が、そんな二人の様子を見て、ためらうことなく瞬ではなく氷河の方を問い詰め始める。
「氷河、おまえ、ほんとに瞬に何したんだよ! 俺たちを痴話喧嘩の巻き添えで殺す気かっ」
「俺はナニしかしていないっ! 瞬っ、このチェーンを外せっ」

氷河の言うことなど、瞬はまるで聞いていないようだった。
瞬はただ、自分の望みを、まるで身悶えするように切なげに訴え続けるばかりである。
「置いてかないで。一緒に連れてって。僕は闘える。僕は聖闘士だもの! 僕は死ぬまで聖闘士として闘い続けるんだ……!」

言葉の意味だけを捉えるなら、それは実に力強い『生涯一聖闘士宣言』だった。
が、なにしろ、そう宣言する瞬の肩は 頼りなく涙に震えている。
氷河には、いったい何が瞬にこれほど不可解な行動をとらせているのか、その訳が皆目わからなかったし、それは痴話喧嘩の巻き添えになりかけた星矢たちも同様だった。

「闘えるって、とてもそうは……」
『見えない』と言ってしまうことは、だが、星矢にはできなかったのである。
なにしろ、瞬は、離陸時推力の加わった重さ5トンのヘリを地上に引き戻してのけるほどの力の持ち主なのだ。
今の瞬なら、星矢を95人、一撃でなぎ倒すくらいのことは、その気になればたやすくできそうだった。






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