僕が僕を探す旅に出て3番目に出会ったのは、スキュラのイオという人だった。
彼は、彼こそが僕の半身だと、僕に言った。

「自分が何ものなのか、何のために生きてるのかなんて、そんな面倒なことを考えるのは無駄なことだ。考えて辿り着いた結論が自分の期待していたものと違っていたら、失望するだけだろう? 人は、考えたり知ったりすることで不幸になるようにできている。与えられた環境で何も考えずに何も悩まずに生きてるのがいちばんだ」

だから彼はポセイドンという神様を盲目的に信じて生きてるんだって。
自分が何もので何のために生きてるのかなんて考えず、与えられた環境を甘受して。
自分の信じてる神様を疑ったこともないし、疑わないから悩むこともない。
信じてるものがあるから孤独じゃないし、自分の良心の扱いに迷ったこともない。
それこそがいちばん幸せな生き方だと、スキュラのイオは僕に言った。

彼は確かに不幸な人間には見えなかった。
“悪い人”にも見えなかったけど――。

「でも、僕は、自分で考えてアテナが正しいと思ったから、アテナのために闘ってきたんだよ」
「自分で考えて、それで間違ったものを選んでしまったらどうするんだ。後悔するだけじゃないか。自分であれこれ考えるなんてことはやめておけ。与えられたものだけを受け入れていればいいんだ。そうすれば、責任は神様がとってくれる」

責任は神様が――。
そうだね。
もしアテナが間違っていたのなら、その責任はアテナがとるべきだと思う。
でも、それで、僕が間違って過ごした時間を取り戻せるわけじゃない。
イオは、その時にどうするんだろう?
ポセイドンを恨むのかな?
そして、それから後はどうするんだろう?

自分が考えて決めたことだから後悔だってできるし、もう一度考えて正しい道を選び直すことだってできるはず。
考えることが自分を不幸にすることはあるかもしれないけど、考えなかったら幸せにも辿り着けない。
幸せは自分の手で掴み取らなきゃならないものだもの。
降ったり湧いたりする幸運と 幸福は違うものだもの。

「アテナが間違ってたらどうするんだ! ここにいろ!」
そう叫ぶイオにさようならを言って、僕はまた歩き出した。






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