闇の色をした神から逃れるために、僕は走って走って走り続けた。
そうして、最後に僕が辿り着いた場所。
そこは何もない空間だった。
誰もいない場所だった。
上も下も、暖かさも冷たさもない。
僕の周りには誰もいない。
今まで会ってきた人たちも、これまで歩んできた道も、もちろん仲間たちの姿もない。

信じるものも愛するものもない。
闘いも裏切りもない。
人を傷付けることも傷付けられることもない場所。
絶対の孤独と虚無だけが、そこにあった。

これが僕?
僕のいる場所?
本当は僕は一人ぽっちなの?
探してた僕の半分なんて、ほんとはどこにもないの?

僕は言いようのない不安にかられた。
僕を傷付ける者さえ、そこにはいないのに、とてつもない恐怖に僕は支配された。
僕は、僕分ひとりだけでは、自分が存在しているという自信さえ持てない。

これが僕?
ここが僕のいるべき場所?
この、何もない、誰もいない場所が?
人はみんな、本当はこんな場所にいるの?
こんな場所ででしか、人は完全な自分でいられないの?

だとしたら――こんな場所が人の存在する真実の場所なのだとしたら――僕はこんなところにはいたくない。
人を傷付けることで苦しむことがあったって、人に傷付けられて悲しむことがあったって、僕は、僕が傷付ける人や僕を傷付ける人がいる世界で、苦しんだり悲しんだりしながら生きている方がずっといい。
星矢がいて、紫龍がいて、兄さんがいて、氷河がいて――未熟で不完全でも、そんな僕を許し受け入れてくれる仲間たちのいる場所で、自分の不完全に悩みながら生きている方がずっとずっといい。

「氷河……っ!」
孤独と虚無に押し潰されそうになりながら、僕は悲鳴のように氷河の名を呼んだ。
そうしたら。

「瞬」
氷河の声が聞こえてきたんだ。






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