城戸邸ではないその建物は、防音設備もまるで考慮されていないようだった。
自分のいる場所がどこなのか理解できず、ベッドの上で自失していた瞬の耳に、部屋の扉のすぐ前で交わされているらしい男たちのやりとりが聞こえてくる。

「今、この部屋を出ていかれたのは確かに王子だったのか」
「先ほど、王太子殿下の私室の方に戻られたのを確認した」
「密告を受けた時にはまさかと思ったが、仮にもこの国の世継ぎが、こんな身分の低い 貴族ですらない者の部屋に夜な夜な忍んでおいでとは……」
「まあ、ラーヴェンスベルク伯やヴェストファーレン公がぜひ譲り受けたいと、陛下にじきじきに願い出ているほどの美形だそうだから……。そちらのご趣味をお持ちの方々にはそそられるものがあるんだろう」

瞬の耳に飛び込んできたものは、瞬の記憶の中には全く存在しない声だった。
いったい自分の身に何が起きたのかと、瞬がやっと考え始めることができるようになった時、樫の木でできた古ぼけた扉が嫌な音を立てて開かれ、金属片を布に縫いつけたスケイルメイルを身に着けた兵士が4人ほど室内に入り込んできた。
瞬を無力な獲物と思っているらしく、特に攻撃的な気配はまとっていない。

「高貴な方々の高尚な趣味というのは全く理解できんな。こんな細っこい子供と寝て、何が楽しいんだか」
「いや、だが、そこいらの貴族の姫君よりずっと白い肌をしてるじゃないか」
兵の一人が瞬の肩に手を伸ばしてくる。

「あ……」
武器を持った男たちの下卑た視線にさらされて、瞬は慌てて裸身を隠そうとした。
その瞬の前に、荒い肌触りの麻の短衣が放り投げられる。
「服を着ろ。大逆罪及び国家反逆罪で拘禁する」

瞬に告げられた罪名は、21世紀の日本には到底ありえないものだった。






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