ここがどこなのか、ここでの自分がどういう立場の人間なのか──何もわからないまま、結局瞬はその男たちに拘束されてしまった。
そして、大人が普通に擦れ違うのも困難なほど狭い石壁の廊下を引きずられるようにして 瞬が連れていかれたのは、木の扉の代わりに鉄柵がはめ込まれた石牢の中。

「おまえの処遇は国王陛下がお決めになる。──が、大事な世継ぎの君を下賎の者に誘惑されたというので、陛下は烈火のごとくお怒りだから、おまえの極刑は免れ得ないところだろう。覚悟しておくことだな」
瞬を狭く冷たい石牢に押し込めた兵は、それだけを言い残して、やってきた通路を戻っていった。

粗末な木の寝台が、牢の半分を占めている。
牢の壁には僅かに光が忍び込んでくるほどの小窓があったが、それはたとえ鉄柵がはめ込まれていなくても瞬が抜け出すことは不可能なほど小さなものだった。
どう考えても脱出はできそうにない。

いったいなぜこんなことになったのか──。
混乱しながら、瞬は、古ぼけた寝台に腰をおろし、石の壁に背をもたせかけた。
ぼんやりと、古い書物を読んでいた者がその本の中に入り込み幾多の冒険を経験する物語を思い出す。
今の瞬の状況と心境は、まさにそんなふうだった。

ここは特別な牢獄らしい。
瞬の他に囚人がいる気配もなく、石壁の冷たさ以上に冷たい静寂だけが瞬を取り囲んでいる。
その静寂の中で、シュン・・・は、徐々に自分が何者なのかを思い出し始めたのである。
忘れていた記憶が、ふいに瞬の中に流れ込んできた──。






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