「でも、それからしばらくの間、僕は、僕のペルセウスはいったいどんな人なんだろうって、それこそ白馬の王子様を待ち焦がれる女の子みたいに夢見てたんだけどね……」
一つの大きな闘いが終わり、その闘いで人を傷付けてしまった瞬は、生き延びた仲間たちの前で、寂しげな微笑を浮かべながら呟いた。

氷河がひどく不機嫌そうな顔をして、瞬の“夢”を言下に否定する。
「アンドロメダもペルセウスもあるか。自分の聖衣の星座の因縁など、俺たちには無関係だ。それで言ったら、白鳥座は好色なゼウスの化身の星座だぞ。それも女をものにするために化けた品性下劣な。女を盗んで敵を倒せるのなら、こんな楽なことはないな」
そう言う氷河の口調は投げ遣りで、どこか自虐的だった。

「白鳥座には、太陽の馬車から墜落したパエトンを探し続けるパエトンの親友のキュクノスの星座だという説やオルフェウスの死後の姿だという説もあるぞ」
氷河の自虐の理由を知っている紫龍が、さりげないフォローを入れる。
氷河の自虐の理由──それはつまり、彼が瞬のペルセウスではない、ということだった。

「俺の方がまだアンドロメダ姫には縁があるよな。ペルセウスの乗る馬だし」
紫龍のそのフォローを、星矢が無邪気に台無しにする。
鈍感な仲間の発言のせいで、紫龍は更なるフォローを余儀なくされた。
「まあ、いずれにしても聖闘士本人と星座の間に相関関係は存在しないだろう。ペルセウス座のアルゴルは、瞬を救う英雄どころか俺たちの敵として現れたわけだし」

紫龍の言葉に瞬が寂しそうに頷く。
「僕のペルセウスなんて結局は来ない。人は、そんな救いなんか期待せずに、自分ひとりの力で闘い、強くなって生き延びるしかないんだろうね……」

前向きなようで、その実 悲観の色の濃い瞬のその言葉を聞いた氷河が、己れの無力に歯噛みしたのは、十二宮での闘いが終わった頃のことだった。






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