『諦めないでくれ』
瞬の心──それはいったいどこにあるのか──に悲痛な叫びが響いてきた。

『諦めるな。生きていてくれ』
それは、この冥界のどこかで彼の闘いを闘い続けている白鳥座の聖闘士の声だった。
『救われるのを待つのじゃなく、諦めることもせず、生きていてくれ。そして、生きていることで俺を救ってくれ』
(氷河……)
『いいか、おまえが死んだら、俺の心も死ぬぞ。おまえはそれがわかっているのか』

(──氷河)
瞬はわかっていなかった──知らなかった。たった今まで。
氷河の必死の叫びが──彼にその叫びを叫ばせているものが何なのかを、その叫びによって知らされた たった今この瞬間まで。

(僕の死は──今 僕がここで死ぬのは、ハーデスを道連れにできても、地上に平和を取り戻すことができても、それでも諦めなの? それでも、みんなへの裏切りになるの?)
──それは、少なくとも氷河を苦しめる選択ではあるらしい。
瞬は、最期の一瞬を掴み取ろうとしていた自らの手を止めた。






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