(もし俺が瞬のペルセウスだったなら、こんなところで足止めを食うこともなかったのか……)

ペガサスの翼が、氷河は今こそ欲しかった。
しかしそれは星矢のもので、彼は今、瞬の前で倒れ伏している。
鳳凰の熱い血を、氷河はいつも羨み続けていた。
だが、それは瞬の兄のもので、彼は弟を殺すことも救うこともできなかった。

一輝や星矢──瞬やアンドロメダにとって重要な立場にある者たちは、冥界の王に魅入られた瞬のために闘い傷付いている。
それすらも許されないのは、自分が瞬のペルセウスではないからなのか──そう考えて、氷河は奥歯を噛みしめた。

瞬のペルセウスでなくてもいい。
ただの無力な人間の一人にすぎなくてもいい。
氷河はただ、今すぐに瞬の許に飛んでいきたかった。
氷河の心は逸ったが、彼の望みは叶わない。

「くそっ!」
彼にできることは、瞬を救うことではなく、たった今彼の目の前にいる敵を倒すことだけ。
そして、瞬に向かって叫び続けることだけだった。

『頼むから、生きていてくれ』 と。






【next】