いつもなら闘いのあとには、勝利を手にし 命を永らえても浮かない顔をしているのが常だった瞬の表情が、今は明るい。
それは、アテナの聖闘士たちが、死と闇の世界から 生と光の世界に戻ってきたせいばかりではないようだった。

冥界の闘いでも多くの犠牲を出し、そのうちの幾人かは瞬が自分の手で倒したというのに、そして、アテナの聖闘士が一つの闘いで死なずに生き延びたということは、次の闘いが彼を待っているということだというのに、瞬は、暗い表情をしていなかった。

瞬が勝利を喜ぶような人間でないことはわかっている。
だからこそ氷河は、そんな瞬が不思議だったのである。
氷河の視線に気付いた瞬は、彼に微笑を返してきた──陽光を宿したように明るい瞳で。

「冥界で──諦めるなって、生きててくれって、氷河、何度も僕に言ってくれたでしょ。氷河の方がずっと苦しい闘いを闘ってたのに、それなのに……。だから、僕は生き延びることができたんだと思う。ありがとう」

これほど明るく輝いている瞬の瞳を、氷河はかつて一度も見たことがなかった。
闘いのない時、闘いのない場所で、仲間たちと他愛のない言葉を交わしている時にも、瞬の瞳にこれほどの光がたたえられていたことはない。
それはひどく眩しく――直視していると気後れを感じるほどに眩しく――だから、氷河は我知らず目を細め、それから視線を逸らした。
横を向いて、ぽつりと言う。
「それしかできなかった。俺は──おまえのペルセウスじゃないから」

瞬は笑っているらしい。
瞬の上から視線を逸らした氷河に、その事実を確認することはできなかったが、瞬の声音はいつになく軽快で明るく、そして弾んでいた。
「あの時、氷河の心や夢や憧れや後悔が、僕の中に流れ込んできて──氷河はペルセウスになりたいって叫んでた。僕のペルセウスになりたいって叫んでたよ」

瞬のその言葉に、氷河の心臓が一瞬大きく跳ね上がる。
すべてを瞬に知られてしまったのかと氷河の心はあせり、気まずさと遣り切れなさを覚えた。
瞬を好きなこと、その思いが成就することはないと思おうとしていること――ではなく、己れの無力にジレンマを抱き、それでも希望を捨て切れずにいること――を瞬に知られてしまったことの方が、氷河を恥じ入らせた。
諦めるということができず、未練を抱き続ける自分自身に苛立ちを禁じ得ない。

しかし、瞬は、氷河の心の中にあるものを、氷河と同じようには捉えていないようだった。
それは、瞬にとっては、未練ではなく希望だった――らしい。
「あの時、本当に強いってどういうことなのか、本当に僕を救ってくれるのは誰なのか、僕のペルセウスがどういうふうに僕を救ってくれるのかが、僕はやっとわかったんだ」

瞬のその言葉が、横に逸らされていた氷河の視線を捕える。
氷河は少しくためらってから、視線を瞬の上に戻した。
その先で、瞬が嬉しそうに微笑んでいる。
「僕を救ってくれたのは、圧倒的な力をもって颯爽と敵を倒してくれるペルセウスじゃなかったけど……でも――氷河には、あの時の僕の気持ち、わかるかな。僕には、氷河の心や言葉が輝いて見えた・・・。諦めるなって、どんな時にも僕を励まし続けてくれる人がいれば、きっと僕はいくらでも強くなれるって思った」

「瞬……」
「負けるな諦めるなって僕に言ってくれて、自分も諦めずにいることを行動で示してくれて――そうすることができる人以上に強い人を、僕は知らない」
きっぱりと断言してから、瞬が少し はにかむように桜色の瞼を伏せる。

どうして今日の瞬はこんなにも輝いているのだろうと、氷河は思った。






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