「腕、つらいか?」
「あ……んっ」
縦にとも横にともなく、首を振る。
鎖に繋がれたままの不自然な体勢や、血の通わない腕のつらさより――シュンは、ヒョウガの指が触れる場所の方が痛くて熱かった。

「もうしばらくこのままでいろ。そそられる」
頬から首筋へ、胸から腹部へと、ヒョウガの唇と指と手の平が徐々におりていく。
鎖に繋がれたシュンの前に跪いたヒョウガのそれらのものは、やがてシュンの腰に太腿に脚に絡みつき始めた。

「ああっ」
反射的に脚を閉じようとしたのだが、ヒョウガの唇に内腿を辿られて、シュンはそうすることができなくなった。
腕の痛みなど、確かめようと意識してももう感じることができない。
ヒョウガの腕や指や唇、脚、肌――ヒョウガと触れ合っている場所に、シュンのすべての意識と感覚が勝手に向いていく。

夜になりかけてやっと吹き始めた陸風ごときには、ヒョウガの愛撫によって生まれるシュンの熱を冷ますことはできない。
凪いでいる波の音も、間断なく洩れるシュンの喘ぎを消し去ることはできなかった。
シュンの身体の奥に、何かぞくぞくする感覚が生まれ始めている。

自分の唇から洩れ始めた声が、生まれたばかりの子猫の鳴き声に酷似している――と、シュンはぼんやりと思った。
そして、それは自分では止められない。
それを止めることができるのはヒョウガだけで、実際に彼はシュンのその声を止めてみせた。
ふいにシュンの身体への愛撫を中断し、シュンの片脚を、左の腕で抱きかかえるように持ち上げることで。

身体の上皮と呼べない部分がヒョウガの指と目にさらされていることに気付いて、シュンは頬を真っ赤に染めた。
「ヒョウガ……っ!」

シュンの抗議の声を、ヒョウガは無視した。
代わりに、シュンに命じてくる。
「身体のどこにも力を入れるな。俺が全部支える」
宣言通りに、ヒョウガは左の腕でシュンの右脚を、右の腕でシュンの腰と背中を支えて、シュンの身体をほとんど宙に浮かせた。
シュンの左足の爪先だけが、かろうじて、岩の上にある砂の粒に触れている。
シュンの身体を覆っていた薄物は今は、ヒョウガによって抱えあげられた脚にかろうじて引っかかっているだけだった。

「あっ……あ……」
性交というものは寝台の上で互いの身体を重ね合って行うもの――という程度の知識はシュンにもあった。
まさかヒョウガは、こんな場所でこんな体勢でそれをするつもりなのだろうか。
恥ずかしさと、これは普通の性交ではないという思いとが、シュンの身体を震わせた。

シュンの困惑をよそに、次の瞬間――シュンがふっと全身が浮き上がった感覚に捉われた瞬間に、ヒョウガはそれをした。
彼は、シュンには普通ではないと思える体勢をとらせたまま、シュンの中に入り込んできたのである。
「ああ……っ!」
驚いて――純粋にヒョウガの行為に驚いて、シュンは声をあげた。
それの声がすぐに苦痛が生む悲鳴に変わる。
ヒョウガはその唇でシュンの悲鳴を飲み込んだ。






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