シュンは身体のありとあらゆる部分の動きを封じられていた。 唯一ヒョウガを受け止めた部分だけが、シュンの意思を無視して緊張と弛緩を繰り返している。 それだけは、シュンにもわかった。 「やっと試せた。想像していたよりずっといい──いや、とてつもなくいい……」 シュンを身体の内と外から完全に我がものにしたヒョウガが、低く呻くように言う。 何を訳のわからないことを言っているのかと、シュンはヒョウガに反駁しようとしたのだが、シュンにはそうすることはできなかった。 ヒョウガを身の内に受け入れることは、シュンに非常な痛みを運んできた。 「いたい……」 「俺はえらく具合いがいいが――」 シュンの腰を更に自分の方に引き寄せて、ヒョウガがシュンの身体の内側で、より上の方へと上がってくる。 シュンはそれ以上大人しく耐えることができなかった。 「痛い……痛い、ああっ」 掠れた悲鳴を響かせるシュンの瞳に涙がにじみ、それが頬に流れ出る。 さすがに、自分の満足のためにシュンの身体を痛めつけることは本意ではなかったヒョウガは、シュンの身体の上に進む行為を中断した。 「そんなに痛いのか」 そして、彼は、シュンの中から身を引こうとした。 「やっ」 ヒョウガのしようとしていることに気付いたシュンが、小さな非難の声を洩らす。 ヒョウガにしがみついていきたいのに、腕の自由を奪われているせいで そうすることができない。 力をどこに逃がせばいいのかがわからず大きく身悶えたシュンは、それから、あろうことか自らの腰でヒョウガを追いかけた。 そして、悲鳴のように懇願した。 「やだ、僕の中にいてっ!」 シュンが訴えるように口にした望みに、ヒョウガは一瞬瞳を大きく見開いてしまったのである。 込みあげてくる笑いを押し戻すことができず、それを口許に刻む。 「おまえは本当に可愛い」 シュンの頬に自らの頬と唇を押し当て、シュンを解放しようとしていた腕に再び力をこめて、前より強くシュンを抱きしめ、同時に ヒョウガはシュンに望まれたものをシュンの身体の更に奥に侵入させた。 「お望みとあらば、いつまでもここにいる。俺の だから多少の無体は許せというように、ヒョウガが勢いをつけてそれを突き上げる。 悲痛にも聞こえる悲鳴をあげて、シュンはヒョウガの無体を歓んだ。 ふざけた言葉や無体な行為を咎める余裕は、今のシュンにはなかった。 というより、ヒョウガの言動をふざけたこと無体なことと感じ認める判断力を、今のシュンは有していなかった。 シュンは、ヒョウガによって与えられる力に夢中だった。 ヒョウガの肩と首に自分の頬と唇を交互に押しつけて、ヒョウガに与えられる感覚に耐えていたシュンは、だが、やがてそんな仕草だけでは耐え切れなくなって、顔と背を後ろに仰け反らせた。 「ああああああ……っ」 自分の手足がどこにあり何をしているのかが、シュンには既に認識できなくなっていた。 痛みと思っていたものも、今は身の内を焼くほどの熱を持った大きなエネルギーの塊りとしか感じられない。 シュンの唇からは 悲鳴混じりのすすり泣きが勝手に洩れ続けていたが、それはもう、我が身に受け入れたものによって与えられる痛みによるものではなかった。 永遠に寄せては返す波のようにヒョウガにまとわりつくシュンの声と肉が、ヒョウガからも ふざけた言葉を吐く余裕を奪い去ってしまっていたのだが、ヒョウガが無言になったことにさえ、シュンは気付いていなかった。 離れないまま、どこが終わりでどこからが始まりなのかわからない行為を幾度か繰り返し、声もまともに出せなくなった頃には、自分の腕が死にかけていることすら、シュンはどうでもよくなってしまっていた。 さすがにこれ以上快楽を求めすぎてシュンの腕を失うわけにはいかないと判断したヒョウガが、月明かりの下でシュンから身を引く。 シュンはその時にはもう、自分の力では立っていることができなくなっていた――らしい。 熟した果実が今にも果樹の枝から千切れ落ちそうになっているような格好で鎖に繋がれている全裸のシュンの姿に、ヒョウガはしばし見とれてしまったのである。 もしポセイドンという神が本当に存在し、こんな生け贄を望んだというのなら、その神は高雅と退廃の境界をさまよう趣味の持ち主に違いない。 白い月明かりの下で艶めくシュンの裸体を眺めながら そんなことを考えていたヒョウガは、やがてはっと我にかえった。 ヒョウガが シュンを犠牲の岩棚に繋ぐ鎖を慌てて断ち切ると、陽光を体内に取り入れて熟した果実が、ゆっくりとヒョウガの手に落ちてきた。 |