縛りつけられていた鎖から解放されても、シュンの肢体は十分に鑑賞に耐えうるものだった。――目でも指でも。
白く静かな月光に照らされている岩棚に腰をおろし、自分の腕の中にいるシュンが目覚めるのを待つ間、ヒョウガは全く退屈を感じていなかった。

やがてシュンが、微かに身じろぐ。
ぼんやりと目を開けたシュンの顔を覗き込み、ヒョウガはシュンに尋ねた。
「試された感想は」
「……次はヒョウガにしがみつけるのがいい」
まだ完全には覚醒しきっていないような声で、それでも小気味いいシュンの“感想”が返ってくる。
極め尽くした快楽に疲れ果てて眠るシュンの姿も味わい深いが、シュンはやはり覚醒している時の方がいい、とヒョウガは思った。

「その方がいいと思うのか」
「そんな気がする……」
散々無体なことをされたシュンは、自分の意思で手足を動かす方法を思い出すことができずにいるらしい。
シュンの上体を抱き起こし、自分の膝の上に座らせると、ヒョウガは、
「次回はおまえの希望に沿うようにする」
と真顔でシュンに約束した。
シュンが、ほんのりと微笑を作る。

身体だけのことではなく――これほど相性のいい相手とは離れることはできない、と二人は確信していた。
「僕たち、これからどうなるの」
シュンがヒョウガにそう尋ねたのは、だから、不安な気持ちからではなかった。
ヒョウガと二人でいるのなら、乗り越えられない困難も耐えられない苦難もないと、シュンは信じることができていた。

それはヒョウガも同様だったらしい。
彼は不安や懸念など全く感じていない様子で、シュンの髪を指で弄びながら答えた。
「予定では、『そして二人はいつまでも幸せに暮らしました』になるはずだが、夜明けまでこのままでいろ。人を待っているんだ」
「人?」
「俺たちをアルゴスに運ぶ船と、オヒメサマを一人」


――ヒョウガの待っているものがエチオピアの海岸に現れたのは、太陽がその日の最初の光で 濃紺だった海面を青く輝かせ始めた頃だった。






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