幸い、迷子の保護者はすぐに見付かった。
少年は自分が昼食をとっていたレストランの場所を正確に覚えており、彼の保護者は、そのレストランの前で迷子が戻ってくるのを待っていたのである。
氷河の機嫌を損ねた迷子の保護者は、おそらく還暦は過ぎているのだろうが若々しい印象の、遊び着というにはフォーマルなワンピースを身に着けた上品そうな老婦人だった。

「おばあちゃーん!」
たった今まで迷子だった少年が、握りしめた瞬の手を離さずに、もう一方の手を大きく振って彼女に帰還の合図をする。
瞬を引っ張って、その老婦人の前に駆け寄った少年は、幼い子供特有の、抑えることを知らない大きな声で彼の祖母に報告をした。
「おばあちゃん、ママ連れて来たよー」
「ママ?」

孫が連れてきた どう見ても10代にしか見えない少年――老婦人がそう認識したかどうかは甚だ疑問だが――の顔を、彼女はしばらくの間怪訝そうに見詰めていた。
そうしてから、今は迷子ではなくなった少年に、問い質すように言い聞かせる。
「タケルちゃん、何言ってるの。この方はママとは違う方でしょ」

瞬は、迷子を無事に保護者の許に戻せたことに安堵し、氷河は、老婦人が瞬の姿を見ても動じないことで、瞬と同じ顔の『ママー』が存在しないことを確信するに至り、やはり安堵の息をついた。
それさえ確認できれば、卑怯な特権を利用する小ずるい子供に用はない。
迷子の保護者に経緯を説明したり、事情の説明を求めたりする時間が惜しいと言わんばかりの態度で、氷河は踵を返した。

「行くぞ、瞬」
「あ、氷河……!」
瞬は慌てて氷河を追おうとしたのである。
それは結果的に、瞬の手を握りしめていた子供の手を振り払うことになった。
金髪の子供の失礼を取り繕うために、一度後ろを振り返って老婦人に会釈をした瞬に、本物の子供の声がすがりついてくる。
「マぁマー、どこ行くのー!」

その声に反応したのは瞬ではなく氷河の方だった。
その場所を立ち去るために足早に運んでいた足をぴたりと止める。
立ち止まった氷河の背中に、瞬は勢いよく衝突した。






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