そのうちに、ギリシャの聖域で大きな闘いが起きた。 長く聖域を離れていた女神アテナが、自分の地位と権利の回復を要求して、聖域に乗り込んできたんだ。 アテナに従う聖闘士と、聖域を守護する黄金聖闘士たちが、この聖域で死闘を繰り広げた。 氷河も、アテナ側の聖闘士としてその闘いに加わって――そこで、氷河は、自分を聖闘士に育てあげてくれたカミュに再会したんだ。 カミュは、弟子を他の黄金聖闘士になぶり殺しにされるくらいなら 自分が氷河を葬ってやると言って、氷河の前に立った。 氷河は、それをカミュの詭弁だと思った。 結局、自分に都合が悪くなれば、人は自分の育てた弟子をすら殺そうとする。 綺麗ごとを言いながら、カミュがしようとしていることは、とどのつまりは自己保身だ。 カミュは、大人の都合で勝手な理由を作り出し、何も罪を犯していない人間を葬り去ろうとしているんだからな。 氷河は、だが、その頃には、自分の目に疲れ果てていた。 人の悪意だけを見ているのは、人の悪意だけを見ようと努め続けることは、人に利用されまいとそれだけを考えて日々を生きていることは――毎日が緊張の連続で、心をすり減らす行為だ。 疲れるんだよ。 生きていても、少しも楽しくないしな。 いや、氷河は、瞬の優しさがつらく感じられることに疲れていたのかもしれない。 世界中にあふれている卑怯者たちの中の一人でも、カミュは自分を育ててくれた師匠だ。 これ以上生きていても、こんな醜い世界の中でろくなことが起こらないのも確かなことだし、だから氷河は、ここで死んでもいい――と思ったんだ。 カミュが“いい人”でいるための犠牲になってやろうと、ほとんど開き直って、氷河はカミュの拳を受け、そして氷の棺に閉じ込められた。 |