呪われた城






北方の地の公爵は相当の醜男ぶおとこなのに違いない――という噂でした。
でなければ、国王より広い領地を持ち、国王の10倍も金持ちといわれている公爵が、花嫁を見付けられずにいて、国王がその世話に乗り出すなんてありえないことです。

パンを手に入れなければ今日にも飢えて死んでしまうかもしれないくらい貧しい家の娘なら、たとえ相手が多少難のある容貌をしていたとしても、大金持ちの公爵のところに進んでお嫁に行くくらいのことはするでしょう。
それもできないくらい、公爵は恐ろしい容貌をしているのだと専らの評判だったのです。

この国は元来土地が貧しく、穀物はあまり実りません。実っても ごく僅か。
国民は苦しい暮らしを強いられていました。
特に昨年の夏は まるで冬のように寒い日が長く続き、寒さに強いはずの麦も収穫量はいつもの年の半分。
国のほとんどの民がパンも食べられないありさまでした。

そんな国の公爵が国王よりも金持ちなのは、金の卵を産むニワトリを持っているからだとか、魂と引き換えに悪魔と契約を交したのだとか、そうではなく公爵が悪魔との取り引きに払った代価は人間らしい容貌だったのだとか、国民たちは勝手に噂し合っていたのです。

「いくら国いちばんの金持ちでも、嫁の来てもないんじゃなあ」
「いやいや、本当はとてつもない美男子だったのが、魔女の誘惑を退けたせいで、醜くなる呪いをかけられたのだという噂もあるぞ」
「どっちにしても化け物か」
「それに比べたらまだ俺たちの方がましだよなあ。俺には気立てのいい女房がいるし」
「うんうん、まったくだ」
――そんなふうに。

そんな噂の絶えない公爵の城に、それでも国王のたっての願いを聞きいれた幾人かの娘が、赴いたことは赴いたらしいのです。
そのすべてが、公爵の醜悪な容貌に怖れをなして逃げ帰ってきたという話でしたが。
いいえ、送り込まれた娘たちは実は、伝説の青髭公のように公爵に殺されてしまったらしいという噂さえありました。

貴族も百姓も商人も、国民のほとんどすべてが飢えているこの国でただ一人、飢えとは無縁の贅沢な生活をしている公爵への妬みや嫉み――もしかしたら憎しみもあったでしょう。
北の領地の公爵の周辺には不穏な噂ばかりが渦巻いていました。






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