そこは魔法のお城でした――そうとしか思えませんでした。
公爵は、この城に使用人は必要がないと言っていましたが、部屋数が100もありそうなその広いお城で、瞬は本当にただの一人も使用人の姿を見ることがなかったのです。
にも関わらず、お城のすべての部屋は掃除が行き届いていました。
まるで最初から汚れることがないみたいに。

瞬が公爵に指示された衣裳部屋に行くと、そこにはまるで瞬がやってくることが最初からわかっていたように、瞬の身体にぴったりの贅沢な衣装が何十着もずらりと並んでいました。
瞬はなるべく装飾の少ない地味な服を選んで、それを身に着けたのですが、その服ですら、100人の子供の1年分のパンが買えそうなくらい上等の絹でできていました。

使用人がいないのですから、食事の支度をする者もいません。
だというのに、食事の時間にはいつのまにかダイニングテーブルいっぱいに豪華な食事が並び、それらは できたての温かい湯気を立ちのぼらせています。
なんでも食事らしい食事はそのテーブルにしか現れない・・・・のだそうで、公爵は「飢えたくないのなら」と前置きをしてから、瞬に相伴を命じました。
そして、50人の来客があっても食べきれないほどの量の料理は、二人が食事を終えて席を立つと、一瞬のうちに片付けられてしまっているのでした。

「これは……」
驚きに目をみはる瞬に、公爵は説明ともいえない説明を――おそらく、親切心からではなく、質問されることを厭うて――してくれました。
「俺は一生食うに困らないという、やっかいな呪いをかけられているんでな」
――と。






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