公爵の不信はともかく、このお城に掃除の必要がないことは事実でした。
この広いお城は汚れない――のです。

瞬が使うように言われた部屋も例外ではありませんでした。
瞬が一晩眠って寝台を出たその瞬間に、シーツは新しいものに変えられ、綺麗にベッドメーキングもされています。
そして、瞬が身に着けた服は、ワードローブに戻した途端に新品同様の状態に戻ってしまうのでした。

汚れていないガラスを磨き続けるのにも、我慢の限界というものがあります。
することを見付けられない瞬は、ある日、このお城のすべての部屋を探検することを思いつき、その思いつきを実行に移しました。
何か――公爵の秘密に関わる何かが見付かるかもしれないと、それを期待して。

呆れたことに、このお城の部屋は、その半分以上が宝物蔵としか表しようのない部屋で占められていました。
アラジンが『開けごま』の呪文のあとに見たに違いない光景そっくりの部屋が、このお城には数え切れないほどあったのです。
そこでは、王様の冠につけるような宝石が、石ころのように転がっていました。
本当に、まるで砂山の砂粒のように無造作に、宝石が山積みにされているのです。
そんなところで大粒のダイヤを手にとっても、それはただの石ころにしか見えませんでした。
このお城の外でなら町中の人のパン代を購えるような宝石も、このお城の中ではただの石ころ。
それは、とてもおかしなことでした。

そんなふうに探検を続けていた瞬は、最後に、お城の南の棟のいちばん奥にある部屋で、一枚の肖像画を見付けたのです。
その部屋は、お城の他のどの部屋とも違って、立派な調度も石ころのような宝石もなく――肖像画が壁に一枚飾られているだけの質素な部屋でした。

白い壁に掛けられた絵の中では、金色の長い髪をした美しい婦人が一人、微笑を浮かべて椅子に腰掛けています。
その女性の微笑が優しく温かいものに感じられるのは、彼女の視線が、彼女の脇に立つ一人の男の子に注がれているからでした。
婦人の横に立つ4、5歳くらいの金髪の男の子――は、おそらく彼女の子供なのでしょう。
二人はとても似ていました。

その温かい光景に引き寄せられるように肖像画に近付いた瞬は、絵の右下の隅に、この絵が完成した時に記されたらしい日付を認めることができたのです。
20年前の日付でした。

20年前に4、5歳なら、この絵の少年は、幼い頃の公爵の姿を写し取ったものなのではないかと、瞬は思ったのです。
それは 明るく幸福そうな目をした、本当に綺麗な少年でした。






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