子供の泣き声が聞こえる。 薄闇の中に、細く微かに響く声。 子供は母親を呼んでいるようだった。 その子供が何者なのかはわからない。 そして、なぜ自分がそんな夢を見たのかも、瞬にはわからなかったのである。 瞬は亡くなった母を思い出すことは滅多になかったし――そもそも瞬は、思い出といえるほどの母の記憶を有していない。 母を慕って泣く子供――と言われて真っ先に思い出されるのは自分自身ではなく、彼の金髪の仲間だった。 多分あれは自分ではなく氷河なのだろうと、瞬は思った。 母を慕って泣く子供の夢は、自分がこれまで繰り返し見続けてきた氷河の夢の延長なのだ――と。 つい昨晩まで瞬の許を幾度も訪れていた氷河の夢は、瞬には対処のしようのない夢だった。 しかし、今夜の夢は違う。 あの子供は泣いている。 母を見失い、寂しさと心細さに囚われて、彼は泣いていた。 泣いている子供になら、できることもある。 瞬はそう考え、泣いている子供に手を差し延べようとして――目が覚めた。 |