「氷河?」
ラウンジのドアを開けるなり、悲鳴とも雄叫びともつかない氷河の怒声の出迎えを受けた瞬は、それでなくても大きな瞳を更に大きくして、その場に棒立ちになった。

いったい何事が起きたのかという顔で仲間たちの姿を見詰める瞬の様子を見て、氷河はこれ以上の隠し立ては不可能だということを悟ったのである。
瞬を誤魔化すための言葉が見付けられないというのではなく、地獄以上の生き地獄から逃れたいというのでもなく――瞬を騙している状況に氷河自身の精神が耐えられそうになかった。

事の起こりは、母を慕って泣いている子供の夢。
瞬はその子供を哀れみ、その子供に優しくしようとした。
そうすることで自分自身が何かを得ようと、瞬は考えていただろうか。
――いたはずがない。

そんな瞬の前に誠実な人間として立つために、姑息の上に姑息を重ね、卑劣を卑劣で塗り固めるような真似は、彼にはできなかった。
まして、瞬の前でクールになることなど もっての他である。

最後の審判を受けるために神の御前に立つ時ほどの覚悟を決めて、氷河は瞬にすべてを告白した。






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