氷河が目覚めた時、彼の横には瞬がいた。
剥き出しの肩を丸めるようにして、自分の腕に両手を絡みつかせて眠っているそれが瞬だということに気付いて、氷河はぎょっとしたのである。

瞬がここにいるはずがない。
そんなことはありえない。
いったい何が起きたのか――誰がどんな魔法を使って、こんな事態を引き起こしたのかと、氷河の思考は混乱した。

これは異常事態である。
そして、非常事態である。
氷河は、音速並みの速さで早鐘を打ちだした自分の心臓を静めるために、必死に無駄な努力をした。
とんでもなく活発な活動を開始した心臓とは対照的に、氷河の手足はほとんど硬直している。
へたに動くと瞬を起こしてしまいそうで、氷河は気軽に身じろぎもできなかった。

目だけを動かして、ここが城戸邸にある自分の部屋で、今 自分と瞬が横になっているベッドは、昨夜自分が就寝した自分のベッドだということを――それだけを、何とか氷河は確認した。
梅雨の時期に入ってからずっとぐずついた日が続いていたが、今日はまるで季節が一ヶ月分後戻りでもしたかのように晴れている。
カーテンとカーテンの間から、細く白い線を描いて、太陽がその光を室内に射し込ませていた。

「ん……」
まるで抱き枕にそうするように氷河の腕に絡みついていた瞬の腕に僅かに力が加わり、瞬の身体――それはどう考えても衣類を着けていなかった――が微動する。
瞬の瞼が開きかけていることを、氷河は自分の腕に触れる瞬の睫毛の感触で知ることができた。
早鐘を打っていた氷河の心臓は、その時確かに5秒間停止した。
なぜ自分たちがこういう状況にあるのかは全く理解不能だったのだが、ともかくこれが現実である。
氷河は、瞬になじられ怒鳴られ泣かれることを覚悟した。

――のだが。






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