瞬はなにしろ、カミュの凍気に犯された氷河の命を救ってのけたほど、強大で温かい小宇宙の持ち主である。 このシベリアにある永久氷壁や数万年前から存在する氷河とて、瞬ならば溶かしてしまえるのかもしれなかった。 しかも、今は真冬ではない。 それが、この北の大地を瞬がさまよっているかもしれないと知らされた時、氷河の胸中に生まれた希望と期待の根拠だった。 だが、氷河の住む家の正確な場所も知らない瞬が、ほとんど目印のない広大な北の大地で、それを探していたら、方角を見失った渡り鳥のように迷子になってしまわないとも限らない。 真夏でもない限り、夜には0度近くまで気温の下がるこの北の大地を、3日間もさまよっていたら、大抵の人間は疲労と寒さのために命を落とすだろう。 それが、瞬の消息不明の事実を知った時、氷河が抱いた不安と恐怖。 期待と不安という相反する二つのものに苛まれながら、氷河は瞬を捜し始めたのである。 |