幾日、その城の中をさまよったのか――。 もしかしたら、それはほんの数日だったのかもしれない。 あるいは数ヶ月の長きに及んでいたのかもしれない。 自分の存在する場所を正確に把握できていないことが、氷河の時間の感覚までを狂わせていた。 外から見た時、この城はさほど大きな建物ではなかった。 しかし、その城の中で、氷河はいったい幾百幾千の氷の部屋の扉を開けたことだろう。 2枚の合わせ鏡が無限を作り出すように、この城には果てらしき果てが存在しない。 まるで人間の心のように、この城の内部は無辺で複雑だった。 エリスは、そんな無限の中で足掻く氷河の前にしばしば、あの不思議な現われ方をした。 それから、氷河の徒労を嘲笑い、諦めるように誘惑してくる。 氷河は頑なに彼女の手を拒んだが、瞬を見付けたと思って飛び込んだ部屋の中に寒々しい空虚だけを見い出すことの連続は、氷河の疲労を募らせていった。 そんな無益な時間の果てに、ある日氷河は、氷の城の中で、エリスでも瞬でもない人間の姿を見ることになったのである。 それは、彼が倒した彼の師と、彼の前に敵として現れた隻眼の海闘士の姿だった。 この城の中で氷河が見ることのできる瞬と同じように、表情らしい表情もない彼等は虚無の中を漂っているように不確かな輪郭をもって現われ、そして消えていった。 その時に初めて、氷河の中には、ある疑惑が生まれたのである。 ここはもしかしたら死者の国なのではないか――という。 瞬の瞬らしからぬ無表情は死の作り出すものであり、死の力は自分の身にも及んでいるのではないか――と。 氷の城で実際にどれほどの時間を過ごしたのかはわからなかったが、この城に来てから氷河は食べ物を一つも口にしていなかった。 眠りの必要を感じたこともなかった。 ここは空間の歪んだ不自然な場所なのだから、それも不思議なことではないと氷河は思い込んでいたのだが、それは、死の世界に当てはまる法則でもあるに違いない。 その考えを否定するために、氷河はすぐに自らの小宇宙で氷の破片を作り、それを左の腕に突き立ててみた。 白く冷たいばかりの世界に赤く熱いものが出現し、それは痛みを伴っていた。 その痛みに、氷河はほっと安堵の息を洩らしたのである。 この痛覚が錯覚でないのなら、自分は生きている。 少なくとも、氷河は生きていた。 |