次でいく、と瞬は思った。 氷河がもう一度 突き立ててきたら、いつもの、あの世界が崩れ落ちるような感覚に襲われて、この幸福な混乱の時は終わるだろうと、瞬は確信していた。 恐ろしい勢いで全身を駆け巡っている血液が瞬の息を荒くさせ、胸を大きく上下させている。 無意識のうちにのけぞっていく瞬の喉は、既に渇ききっていた。 瞬はもう、その思考も身体の中もめちゃくちゃで、あとは壊れてしまうことしかできない。 早く壊れてしまえばいいと、瞬は思っていたのである。 そして、壊れてしまったものを一つずつ元の形に戻していく時に、心を組み込むことを故意に忘れてしまえば、きっと自分は楽になれるのだ――と。 だから、瞬はその時を――崩壊の時を待っていた。 だが、自分の望みが簡単に叶えられないことも、これまでの経験から 瞬にはわかりすぎるほどにわかっていた。 瞬の望みを知っているはずの氷河は、その望みを叶えようとはせず、最後の楔を瞬の中に打ち込んでこない。 「氷河……っ!」 瞬は、プライドも理性もすべてを打ち捨てて 涙ながらに氷河に懇願したのだが、氷河は瞬の哀願を無視した。 いつものこと――である。 それは、瞬がこれまでに幾度も――数え切れないほど何度も経験させられてきた氷河の冷酷だった。 瞬は、氷河がこの交わりを終わらせる気になるまで、いつものように氷河の慈悲を求め続けるしかないのだ。 喘ぎ、泣き、その名を呼んで彼にすがりつき、そして、瞬にそうされることに氷河が満足する時まで。 それを本当に終わらせてほしいと自分が望んでいるのかどうかは、本当は瞬自身にもわかっていなかった。 だが、終わらせてもらえないと気が狂う。 氷河は、彼の玩具が多少狂ってしまっても構わないと思っているのかもしれなかった。 固く目を閉じ、今にも息絶えてしまいそうなほど規則性のない呼吸を続ける瞬の顔を、彼は瞬と繋がったままで覗き込み、楽しそうにその様を観察している。 目を閉じていても、刺すように痛い氷河の視線が瞬には感じ取れていた。 本当に氷河は、僕が狂ってしまってもいいと思っているのだろうか――と瞬は、彼の心を疑ったのである。 そうなのかもしれない――と思うそばから、氷河はただ、今彼の下で喘いでいる人間が狂いそうになっていることに気付いていないだけなのだという思いが生まれてくる。 そのどちらでも切なくて、瞬は身悶えた。 「お願い、早く……はやく終わらせて」 こんな言葉――を自分はどんな顔をして言っているのかと思わないでもない。 浅ましいと思う心より先に、瞬の身体は、勝手に自らの腰を浮かせて氷河を追い求め始めていた。 その時の自分の顔など気にしても意味がない。 どちらにしても、それを知っているのは氷河だけなのだ。 それは、瞬には知りようのないことだった。 ともあれ、そこまでされてやっと、氷河は瞬に哀れみを覚えてくれたらしい。 彼は、瞬の望みを叶えるための運動を再開してくれた。 そして瞬は、氷河に容赦なく加えられる力のために、何かを考えることも、自分の意思で身体を動かすことも不可能な状態になった。 だが、焦らされ はぐらかされることに身悶えしている様を、氷河に冷静に観察されていることに比べれば、身体が引き裂かれるようなこの痛みの方が、瞬には はるかに好ましく感じられていた。 少なくとも そうしている間の氷河は冷酷ではないと思うことができたし、瞬はその苦痛を快さに変える術も知っていた。 ――否、それは瞬の身体の中で勝手に快さに変わっていく。 瞬は痛みが変換されて生まれた快さに喘ぎ、氷河が自分の中に押し入ってくるたびに、白い喉をのけぞらせ続けた。 そして、だが、今度こそ次の瞬間が最後だと瞬が感じたその時に、氷河はまた、瞬を翻弄する行為を無情に中断させてしまったのである。 瞬は絶望して、声にならない悲鳴をあげた。 |