そんなふうに、まるで なぶりものにされるような行為の後で、瞬が最初に感じるものはいつも、今夜も狂わずに済んだという安堵ではなく、終わってしまったことへの落胆だった。
身体の奥はまだ、氷河に与えられた歓喜の名残りで疼き続けている。
呼吸は乱れたまま収まらず、瞬の唇と喉は喘ぐことを続けている。

いつも先走るのは、瞬の身体よりも心の方だった。
それは氷河との交接の余韻に浸っている身体を置き去りにして、勝手に暗い淵へと沈んでいく。
まして、身体と感覚の乱れが収まってくると、なおさら寂しくなり、瞬の心はそのつらさを、主に向かって切々と訴え始めるのだ。

瞬の横に仰向けになって息を整えていた氷河が、瞬の髪に手を伸ばしてくる。
それが終わってしまいさえすれば、氷河は、最前までの無慈悲や乱暴が嘘のように優しく――仕草と言葉だけは優しくなるのが常だった。
だがそれは、次の夜にも彼の玩具を自分の自由にするための布石でしかないのだ――と、今の瞬は知っていた。
優しくなった氷河が、瞬の肩を抱き寄せる。

「おまえにはわからないだろうが、おまえの身体は、これに関しては最高に具合いが良くできている」
「そうなの」
「こんなに情熱的に熱くなる身体を、俺は他に知らない」
「ふぅん……」
氷河はいったい誰に比べて、そんなことを言っているのか――。
もしかしたら氷河は、褒め言葉のつもりで、そんな残酷なことを言い募っているのだろうか――?
瞬には氷河の意図がまるでわからなかった。

初めて彼と身体を交えた時には、こんな気持ちにはならなかった。
氷河に求められたことが嬉しく、その愛撫は夢のように心地良く、氷河が自分の中で果てた時には、彼をそこに至らせることができた自分自身に安堵した。
瞬は、これを“幸福”と言うのだとさえ思ったのである。

その気持ちが、同じ夜と愛撫を重ね、互いの身体が琴瑟相和するほどに薄れていったのは、氷河が夜毎に瞬を褒めそやし続けたからだった。
氷河に言わせると、瞬は、この行為に素晴らしく向いて・・・いる身体の持ち主なのだそうで、肌の感触、洩らされる声、その反応の過敏さ、もちろん 彼を受け入れる場所も、それは理想以上の現実だということだった。

氷河がそれを喜んでくれるのなら、それはいいことなのだろうと、最初 瞬は思った。
だが二人で身体を交えることを覚えた途端に、氷河は瞬にそのことしか言わなくなってしまったのである。
二人きりになると、氷河はすぐに瞬が身に着けているものを引き剥いで、瞬の上にのしかかってくる。
そして、夢中になって、その残酷な遊びを始めるのだ。

氷河にそうされることが嬉しかったのは、最初の一週間だけ。
氷河がその行為に夢中になればなるほど、瞬の心は、まるで置き去りにされてしまったような寂寥感を覚え、瞬の心の中に生まれた不安は大きくなる一方だった。






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